まほりに連絡を取ると、もう家に帰っているとのことなので、わたしと幸太郎はまほりの家まで行くことにした。
 電話口でちょっと大変なことになった、とわたしが言ったときのまほりの楽しそうな声と言ったらない。
「何々?大変なことって?楽しそう。早く来てー!今暇で死にそうだったの」

 わたしの身の回りに大変なことが起きないかな、と待ち望んでいたかのようなテンションだった。
 まさか、この手の甲のマークが変なことになるって分かっていてやったんじゃ……と疑いたくもなる。
 まあ、もしもそうだったとしても、まほり以外に頼れる人はいないわけだけど。


 家のチャイムを鳴らすと数秒も待たずに、まほりは玄関先に出てきた。
 慌てて出てきた様子で、いつもはふわふわのボブがすっかりぼさぼさになっている。

「まほり、そんな慌てなくても……」
「もう、気になって気になって!それで、大変なことって何?」
 大きな目を輝かせながらまほりはわたしを見る。これは相当な期待をしている目だ。
 わたしは腕の中の幸太郎を抱えると、まほりの目の前に差し出す。
 いくら大変なことを期待しているからって、この異常な事態をそう簡単に信じてくれるとは思えないけど……。

「あのね。コータローが……犬になった」
 自分で言ってバカバカしくなる。
『そう、犬になった!どうにかしてくれ、椎名!』
 幸太郎が相づちを打つ。まほりは鼻先の犬とわたしとを交互に見る。

 ミサ、正気?脳みそ溶けてシェークになっちゃった?
 そんな毒舌も少しだけ覚悟していたのに。