「ミサ、なんか機嫌悪い?」
 友人のまほりだ。
「別に悪くないよ」
「あー機嫌わるーい!別にっていう時ってそうだもん」
 大きな目でこっちをじっと見つめてくる。
「な、何?」
「恋の悩み?」

 うわあ、と心の中で叫んでしまった。図星という意味の「うわあ」じゃなくて、食傷気味という意味の「うわあ」だ。
「まほりまで。みんな、恋恋恋って恋愛至上主義のまわし者か!時代は多様化じゃ!」
「何それ、大丈夫?」
「はー……うちのゆき姉ちゃんも、お父さんお母さんもどうしてみんなこうなんだろ」

 遡るは7時間ほど前、朝の食卓を家族で囲んでいたときの出来事だ。
 原因はゆき姉ちゃんの第一声だった。

「ねーミサ、そろそろ彼氏の一人や二人作りなよ」
 ゆき姉ちゃんは、利き手の人さし指でスマホをいじりながら、逆の手で朝ごはんのトーストを齧る。
「そうだな、父さんもそろそろミサの彼氏とご飯食べたり出掛けたりしたいぞ」
「母さんもしたいわあ~ゆきの彼氏は何度も来てるけど、ミサはまだだものね~」
 両親そろってニコニコした人のいい笑顔でわたしに言う。

 姉ちゃんにはともかく、わたしは両親に鋭いつっこみを入れることが出来ない。
 ふわふわした二人には何を言ってものれんに腕押し状態だと、この16年生きてきて学んだので、突っ込む意欲すらないって言うのが正しいんだけどね。