こういうのも、楽しいといえば楽しいのかなあ……?
 最近こんな感じのどたばたが当たり前になりつつある気がするけれど……。

 今度はお好み焼きに手を付けようとして、松代君と攻防を繰り広げる幸太郎を見る。
 隙だらけだ!とか言いながら、松代君の頭をぐしゃぐしゃにして、松代君の気を逸らせ、その間に積み重なったパックのうちお好み焼きのものを抜き取る。

 そう、こんな感じ。クラスでもクラスの男子とじゃれあって、ちょっとしたことで楽しそうにしていたりする、わたしの知っている幸太郎はこんな感じだ。
 何も変じゃない。

 きっと、昨日の幸太郎がちょっと変で、それを変と感じたわたしが変だっただけだ。
 幸太郎が何でキスしたのかとか、わたしのことを好きなのかもしれないなんていう麻美達の話なんて、多分関係ない。
 わたしと幸太郎が幼なじみだっていう事実は変わらないし、きっとこれからもそうだから。

「本田さん、横堀帰ってきたんだね。一人旅から」
 まほりがりんご飴を狙いにいこーと言いながら参戦しだしたので、入れ替わるようにして、穂波君が隣にやって来る。

「え……ああ、そうみたい。昨日帰ってきたらしくて」
 そういえば、HRで笠井先生にはそう言っておいたんだっけ。穂波君ももちろんそう思っているはずだ。
「これで、出揃ったのかな……」
 穂波君はぽつりと呟く。

「出揃った?」
「そうだといいな、という話だけどね。まあ負けるつもりはないけど」
 柔和ないつもの笑顔ではなく、少し艶っぽい影のある笑顔で穂波君は言う。

 正直、言っていることの意味は分からなかった。
 けれど、タイミングよく羊かん色の空にさあっと雲がかかり、温い風が吹き始めるものだから、ぞわぞわっと背筋に寒気が走り、嫌な予感がした。

 “わたしと幸太郎が幼なじみだっていう事実は変わらないし、きっとこれからもそうだから。”

 そう思い、すっかり気持ちの収まりがついて、この先も平和が続いていく気がする、なんてちょっと締めに入りかけた心がすでにぐらぐらに揺らぎ始めている。

 何もないといいんだけれど……。
 というか、何もありませんよね、神様……?
 祈るような気持ちで神様に問いかけてしまうわたしだった。