それに、キスして抱き合ったらなら、もうそれだけでも十分な繫がりのような気がする。
 そう思っていたら、なぜか胸がずんと重くなるのを感じた。

――――キーンコーンカーンコーン。

「午後の部活が始まるね。わたしは部活に戻るけど、二人もそうしたほうが良いんじゃないかな?放送室も今から鍵閉めるから」
 戸田さんにそう言われてわたしと幸太郎は顔を見合わせる。
 けれど、何となく気まずくなってわたしは顔を逸らした。

「……戻ろっか」
「あ、ああ」
「またね、横堀君に本田さん」
 戸田さんの声を背中に、わたしと幸太郎は放送室を後にした。
 放送室の戸を閉め、廊下を少し行き、階段を降りる、ほんの一分と少しくらいの時間なのに、とてつもなく長く感じていた。

 そのわけは単純明快、幸太郎との間に沈黙が横たわっていたからだ。
 何か聞いたほうがいい気もするし、聞かないほうがいい気もする。

 うやむやになってしまった付き合っているかいないかの話を今切り出して、はっきりさせた方がすっきりするのは分かっていたけれど、口が重くて何も言葉が出てこない。
 幸太郎が誰か女の子と付き合っているなんていう想像を、いまだかつてしたことがなかったからかもしれない。

 わたしが恋愛に興味がないように、幸太郎もそうだと勝手に思っていたから。
 とはいっても、黙っていては何も始まらないのもきっと確かだと思い、足を止め、口を開こうとすると、
「さ」
「な」
 見事に声が重なる。やばい、最も気まずいパターンだ。

 思わず顔を見合わせるけれど、やっぱりわたしが気まずさにたえかね、視線を逸らすことになる。