「ふふふっ、本田さん、何だかわけがわからないって顔してる」
 戸田さんは、幸太郎の背中から手をほどくと、足元に転がっていた瓶を拾いあげる。

「本田さん。昨日言ったの覚えてる?このドロップスは魔法を使う能力を引き出す力があるって」
「う、うん」
「このドロップスを一粒口に溶かして、キスをすればこうやって、ワンちゃんだった横堀君も元に戻るの。ただならぬ仲なら尚更ね?ふふふ」

「た、ただならぬ仲?」
「戸田、何言ってんだよ、キスなん……」
 幸太郎は何かを口にしようとして、突然、喉を押さえる。
 それから弾かれるようにして戸田さんの顔を見た。

「横堀君、取引は取引だよ。これからが大事なんだもの」
「まさか、魔法を……?」
「ごめんね?信用してないわけじゃないけど、横堀君って本田さんに甘そうだから。取引に関係することは話せないようにさせてもらったの」

 青い顔をする幸太郎と、魅惑の笑みを浮かべる戸田さんの表情は対照的だった。
 ただそれよりも、ただならぬ仲、という言葉がわたしの耳に強く残っていた。

 どういう意味なんだろう。
 もしかして……付き合ってるってこと?
「ただならぬ仲ってどういうこと?……二人は付き合ってるの?」

 わたしが言うと、
「はあ?つ、付き合っ……」
 幸太郎が答えようとするけれど、先ほどみたいに喉を押さえる。

「本田さんが想像している通りだよ?ね、横堀君」
「……」

 戸田さんの言葉に、幸太郎は眉をひそめる。
 そんな表情を見ると、戸田さんが言うようなただならぬ仲のようには見えないけれど、二人の間には、わたしの知らない繋がりがあるのは確かのようだった。