番号に見覚えはなかったけれど、出てみる。
『もしもし、ミサキちゃん?』
 はきはきしているけれど温かみのある声音が、通話の向うに聞こえた。

「あ、コータローのママ!」
『いやだあ~久しぶりね』
「あはは、電話するの久しぶりかも」
『そうね、この前まほりちゃんが電話くれたけど。ミサキちゃんとは久しぶり』

「今日はどうしたんですか?」
『コータロー、迷惑かけてない?あの子、ミサキちゃんの前だとはしゃぎすぎるから』
「えーと、まあ……いつもどおりかな」
 犬になっても、いつもどおりのテンションというのもすごいけれど。

『そう?はしゃぎすぎたら、どついてあげてね。本当に調子に乗るから』
 と言いながら、幸太郎のお母さんは笑う。
『それと、そうそう。うちのお父さんがね、コータローに夏祭りの当日くらい手伝いに来い、って言っておけってうるさくって。一応伝えておいてくれる?』
 そういえば、前に幸太郎が言っていたっけ、手伝いに来いって言われているって。

「そのお手伝いって、どうしても、行かないとまずいですか?」
『平気平気。来いって言っておけ、なんていうのも、あの人なりのコミュニケーションだから。来てくれるに越したことはないと思うけどね』
「そうですよね、コータローに伝えておきます」

『お願いね。それとミサキちゃん、たまには家に遊びに来て?男連中ばっかりだと、わたし滅入ってきちゃって』
「うん、行きます。久しぶりに、ママのごはん食べたいし」
『ミサキちゃんの好きなもの作って待ってるわー。それじゃまたね』
 元気な調子で幸太郎のお母さんは通話口から降りた。

「はい、またー」
 わたしも通話を切る。