「何年か一度、夏祭りの日に、最後の花嫁に見立てた舞い巫女を立てるんです。話の中で花嫁がしたように舞を舞って、それから木箱に入り、青年に助け出させる。そういうのを儀式的にやるんです。その巫女の着ていた装束を、最後の花嫁の衣装に見立てて、ここ何十年もその切れ端代用しているらしいです」

「そうなんだ。でも、今年も切れ端が終わりそうって、さっき火恩寺君言ってたよね?」
「おお、姐御!俺の言葉を覚えてくれているなんて、ありがたい!」
「さすがに数分前のことは忘れないって……」

 ここまでちょっとしたことで褒められると、逆にどれほど物覚えが悪いと思われているのか、と思ってしまう。
「姐御の言うとおり、今年の分で装束の切れ端は終わってしまうと思います。親父に聞いたわけじゃないので、判然としませんが、恐らく今年舞い巫女を立てるでしょう」

 そう言いながらも火恩寺君は、なぜかわたしの方から視線を逸らそうとしない。
「舞い巫女って、何かいい響きね~」
「はい、いい響きです」

 逸らされない視線に不安を感じて、口を開こうとしたその時、
――――。
 スマホが震えた。