練習が終わり更衣室を出ると、ちょうど男子更衣室から出てきた穂波君と鉢合わせた。
「おつかれー」
 と声をかけると、穂波君もそう返してくれてこちらにやって来た。

「本田さん、練習遅れてたけど、何かあったの?」
 心配をかけていたみたいだ。
「少しごたごたしたことがあったけど、大丈夫だよ」
 ごたごたの内容が多すぎて説明し切れそうにないから、こう言った。

「そう?ならいいけど。もし何か大変なことがあるなら俺に相談して欲しいな」
「うん。そのときにはお願いするね。あ!」
 そういえば、お昼作ってきてくれたのに、戸田さんとのことがあってなおざりなままだった。

「うん?どうしたの?」
「穂波君。お昼作ってきてくれてありがとう。昼ばたばたしていたから、ちゃんと感想言いそびれちゃって。美味しかったよ」
 わたしがそう言ったとたん、穂波君の顔がボッと赤くなる。

「あ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
 穂波君は自分で爆弾発言したり大胆な行動をしたりするわりに、人のちょっとした発言には感度が良い気がする。
「本田さんよければ、明日も作っていってもいい?」
「わたしは嬉しいけど、穂波君大変じゃない?」

「大丈夫だよ。家族の分も作るから、4人分も5人分も一緒だし」
「そ、そんなに作るんだ……」
 というか、本当に主婦みたいなことやっているんだね、穂波君。

「それに。本田さんのためなら、全然苦じゃない。むしろ幸せなんだ。好きな人のためにご飯を作って、シャツにアイロンかけて、お風呂を沸かして待っている。帰ってきたら、キスで迎えて、夜は一緒の布団で眠るんだ。そんな日が来るのを待っているから」
 そう恍惚の笑みを浮かべながら、穂波君はこちらを見つめてくる。
 そんな彼の背後に花が散って見えるのは、幻覚?