「ふふふ、そうだね。このドロップスは、アホマホサークルの母体、アホマホ協会に相談してイッセイ君が手に入れたものなの。イッセイ君は占いだけじゃなく、魔法にも研究熱心だから、研究のためと言ってね?」
「ああ……」

 アホマホサークルってそんな大きな母体を抱えているのか。
 非常にどうでも良いけれど、ここまで重要な存在になってくると、そうも言っていられないみたいだ。

「本田さんがイッセイ君の運命の女性で、しかも魔法がかかって困っていることを知らなければ、こんな風に取引に使うことなんてなかったと思うけど……」
 戸田さんは表情を曇らせけれど、
「こうなっちゃった以上、わたし徹底的に邪魔しようと思うの」
 すぐに妖艶な笑いを浮かべる。

 すごいな戸田さん、何か、魔女っぽい、と感心してどうする、という感じだけれど。
「ユーリ、そのドロップスをどうするつもりだ?」
「ふふふ。今日のうちはどうにもしないよ。わたしの手元に置いておくだけ。でも――――」

 そう言葉尻を濁しながら、戸田さんは腕の中の幸太郎を見る。
 そして、
「……考えておいてね、横堀君」
 わたしのところまでは届かない小さな声で幸太郎に何か囁いて、それから腕から放した。
 幸太郎はわたしのところまで駆けてくると、手を拘束している布を噛み千切り、解放してくれた。

「ありがとうコータロー」
『まーな。これくらいしか出来ねーし』
「何か、元気ない?」
『そんなことねーよ、平気』
 本人は言うけれど、様子が少し変だ。
 こんな風に助けてくれたなら、感謝しろよ!とでもうそぶきそうなのに。

「それじゃ、みんなまたね。イッセイ君も、ね?」
 微笑を浮かべてから、戸田さんは踵を返していった。
「待て、ユーリ!」
 と松代君は追いかけようとするけれど、さっきまで自分で座っていた大きな椅子に蹴つまずいて進行を阻まれていた。

「……」
 わたしと幸太郎、そしてご老人が無言で見守っていると、
「何か突っ込みを入れられたほうがましだ!」
 と松代君は叫びながら、戸田さんを追いにいった。

 よろよろと出て行く松代君が少し心配になったけれど、
「本田さん、部活動の方に戻っていただいて大丈夫ですよ。坊ちゃまのことはこのじいやめが何とか致しますから」
 そうご老人に声をかけてもらったので、部活に行かせてもらうことにした。
 というより、部活に出るはずが拉致されることになったのだから、まあ、当然の権利なんだけどね。