そのとき、
「ちょっと待って!」
――――ガラガラガラ。
 と音を立て、部屋の戸が開くのと同時に声がかかった。

「え?」
 わたし達は一斉に戸の方に視線を集める。
 そこには幸太郎を腕に抱える戸田さんの姿があった。

「戸田さんに、コータロー!?」
『ミサキ……』
「ユーリ、姿を見せないからどうしたかと思えば。何をしていた?」
 想像していた通り、二人は知り合いのようで、そう松代君は声をかける。

 けれど、戸田さんは質問には答えずに、
「イッセイ君。わたしもう協力するの止めることにしたよ」
 薄笑いを浮かべると松代君にそう言った。

「何だと!?」
「今まで幼なじみのよしみで手伝ってきたけど、イッセイ君は、一に占い二に占い……三四はなくて五に占い……。そんなのに付き合わされるの、もううんざり!」

 何だろう、これっていわゆる修羅場っていうやつなのかな。
 どうしよう。わたし見ていていいの?
 そんなことを思っていると、戸田さんの視線がこちらへと向く。

「本田さん、さっきはごめんね。手荒なまねして」
「まあもう痛くないし、それは平気だけど……」
「ふふふ、許してくれてありがとう。許してもらえたところで。あのね、イッセイ君があなたと取引したいのは、このドロップスなんだよ」
 そして、手に持っていた小瓶のようなものを差し出すようにして見せてくる。

「小瓶……?」
 中には、彩り鮮やかに光るドロップスが入っているのが見える。
「ユーリ、どうしてそれを!?確かにこうしてここに……」
 松代君は自分の制服のポケットを探り、彼もまた小瓶を取り出すが、そのとたん顔色を変える。

「中身が変わっている!?」
「ふふ。ごめんね、さっきすれ違いざまに入れ替えさせてもらっちゃった」
 戸田さんは悪戯な微笑を浮かべると、小瓶を揺らしてみせる。
 中のドロップスがからからと音を立てる。

「何ていうスリの手口だ……」
 松代君はガックリと肩をうな垂れる。
「でも、ドロップスがどうして取引に?」

 ドロップスで魔法が解けるとは思えないけれど。
「このドロップスは、心身の状態を整えて魔法を使うのに最良の状態を作るものなの。これ自体には魔力はないけど、一粒口にするだけでその人の持っている魔法を使う力を引き出すの」

「すごいマジカルグッツだね……」
 ちょっと反則なくらいだ。