『キャン、キャ……サキ』
「ん?」
『ミサキ!』
 犬の鳴き声がわたしの名前を呼んだのだ。
「ええ!?」
『平気か!?どっか痛くないか!?』

 次から次へと聞こえてくる謎の声に、わたしの処理能力の高くない頭は混乱する。
 犬が話すなんてメルヘンな妄想をするほど夢見がちじゃないつもりだったけれど、
『ミ、ミサキ……。なに白目剥いてんだよ!』

 こうやってありえない幻聴が聞こえてきている以上、どこかにそんな願望があったのかもしれない。こういう場合、どこで診てもらえばいいのだろう?
 病院?スピリチュアルなんたらのところ?
『スピリチュアルなんたらって、なんだよ』
「え?」
 心の声に思いがけない突っ込みがはいって、思わず驚く。 

 マルチーズと目が合う。勘違いだ。
『勘違いじゃねーってば。ミサキの心の声びんびんに聞こえちゃうぜ!』
「……」
 このアホウな話し方には非常に覚えがあった。

 わたしは試しに目の前にいる愛らしいワンコにデコピンしてみる。
『いてっ!ミサキ何すんだよ!』
 この可愛い見た目とかけ離れた、品のない話し方は間違いなかった。
「もしかしなくても、コータロー?」
『そうそう。ミサキの可愛い幼なじみ幸太郎だ』
「勘違いだったね」
『ええっ!?』
「可愛い幼なじみなんて、わたしにはいないよ」

『ミサキの……えー』
「バカな幼なじみ?」
『いや、それはさすがに……』
「サルっぽくて、品のない幼なじみ?」
『それ、俺とサルの両者に失礼だからな!』
「まあ、いいや。そのバカっぽい話し方はコータロー以外の何者でもないよね」
『そ、そういう理解って嬉しくねーな……』
「それよりも……何で、犬?」