甲高い犬の声でわたしは目を覚ました。
 ぼんやりとした頭を抱えながら、わたしはゆっくり体を起こす。
 すると、
「いたたた……」
 体のあちこちに鈍い痛みがある。
 周りを見渡すと草原が広がっており、後ろ手には土手の上からつづく斜面がある。
 どうやらわたしは、土手から河川敷まで転げ落ちてしまったようだった。
 
『キャンキャン』
 唐突に傍らから例の声がしたので、何事か!とわたしは声のするほうを見る。
 白い小さな犬がそこに居て、尻尾ふりふりつぶらな瞳でこっちを見ている。 
 種類は、何だろう、マルチーズかな?
 そんなに詳しくはないけれど、友達の家の犬がマルチーズだったから、多分間違いない。

 マルチーズはわたしと目が合うやいなや、わたしの腿の上にのってきて、何やら必死に吠えてくる。
 『キャン!キャキャンキャン!』
 犬なりに何か伝えたいのだとはわかったけれど、残念ながらわたしは犬のことばを理解できる脳みそを持っていない。
 
 犬がなおもわたしの腿の上で跳ね回るので、わたしは犬の頭を撫でて落ち着かせようと試みてみる。
 どこからやって来た犬だか知らないけれど、毛並みが綺麗だしきっと飼い犬だ。
 どこかに飼い主がいるといいけど。
 そんなことを考えていた矢先だ。