魔法1日目(赤口)

 ――――じぃじぃじぃ。
 夏休みももう中盤の、8月。
 ただ今補習真っ最中の教室に、蝉の声が響く。

 命短しとせっせと鳴くのは結構だけど、数学の公式とにらめっこの最中の面々にはイライラのもと以外の何物でもないようで、
「あーあーあー!うるさい!」
 そのなかでも辛抱がきかない我が幼なじみの幸太郎が、誰より先に音をあげた。
 窓枠に両手でしがみついて、檻に入れられた猛獣のようにガタガタ揺らす。

「あー静かにしてくれぇ!」
 校庭に向かってシャウトするけれど、校舎をはさんで、校庭と逆側の中庭の木々でないている蝉たちには、届くわけもない。
 補習中の面々は突っ込むのも面倒くさそうな目で幸太郎を見て、それからわたしを見る。

 どーしてわたしを見るかなあ……。
 ただでさえボロの窓枠が危険な音できしみはじめたので、面倒ながらわたしは言う。
「コータローうるさいよ。おだまり!」
 教科書を机に叩きつけてそう言うと、幸太郎はびくんと窓枠から飛びのいてこっちを見る。
「ミサキ……怒んなよ。こえーから」
「自分だけが暑いと思わないでよね!暑いならコータローが自腹でこの部屋にクーラー提供すればいいじゃん」
「そんなあ……」
「分かったら席についてよね」

 ぴしゃりと言い捨てると、幸太郎はがっくりと肩を落として、席についた。
 わたしは教科書に視線を戻して、あと10分後に迫る確認テストのために暗記を再開する。
 えーとこの公式は――――
 すると今度は横からつんつんと肩を叩かれた。