*愛優side*
「大丈夫…歩ける」
自信はなかったが、抱えられるのは嫌だった。
他の生徒の目もあるのだ、噂をされるに決まってる。
…とは言え、息苦しさに足元が崩れそうになる。
本当は、その大きな背中に身を預けたい。
言わないけれど。
保健室から駐車場までがやけに長く感じられた。
そう距離はないはずなのに、ずっと先に見えた。
呼吸をするたび、鳴る胸の音。
少し前を歩いていたパパが振り向き、眉を寄せて険しい顔をした。
目は合ったのだが、気がついていないフリをしておいた。
「昼食べたの?」
「食べてない…」
車の鍵を開ける音が聞こえたあと、助手席のドアが開く。
縋るように座席に倒れ込むと、パパが背後に回った。
「持ち上げるから乗って」
「ん…」
腰を掴まれ、体が浮く。
「ちょっと待っててよ」
助手席が少し倒された。
背中をそれに預けると、ドアが閉まる。
苦しい…
保健室に数名の利用者がいたせいか、人目が気になり吸入を吸えなくて。
迎えに来たパパがこれ以上はと判断し、車に戻る選択をしたのだ。
あのままあの場にいても、落ち着くことはなかったと思う。


