体を抱えながら片手でドアを開け、玄関の中へ。
先に荷物を下ろし、ジャケットを置き、と手順を踏んでいるうちに リビングへのドアが開いた。
「ありがとう…あ、寝ちゃったの?」
「ん、全然起きなくてさ」
「ふふ、珍しい」
「部屋のドア開けてくれる?ベッドまで運んじゃう」
「大丈夫だった…?一応愛香からも連絡もらったんだけど、ずっと心配で」
「大丈夫、何もないって」
「最初から迎えに行けば良かった、すごく可哀想なことしちゃった」
「だいぶ面倒な男に捕まったみたい」
季蛍がマフラーを解いてコートを脱がせるが、起きる気配は一切ない。
完全に眠り込んでいるらしい。
「無事でよかった」
スヤスヤと寝息を立てる愛優の頭を愛おしそうに撫でると、服を抱えたまま部屋のドアを開けた。
背中を支えながら再度抱え上げ、中へ入る。
「もう最後かもよ、こんなの」
「俺もそう思う」
ゆっくりとベッドに下ろし、部屋の外に出た。
「ありがとう、仕事終わりだったのに」
「全然」
「今度奏太くんと愛香にお礼しないとね」
「すごい拒んでたけどな」
「今日の偶然がなかったらって思うとちょっと怖いもん、私」
二人でもう一度中を覗き、頷き合いながら部屋の電気を消した。
*おわり*


