「愛優、着いた」
結局窓におでこを預けたまま眠り続け、家についた。
肩を揺らしても目は開かない。
「愛優」
目尻に残った涙の跡。
顔に掛かった髪を払い、もう一度肩を叩く。
「家ついた」
「…ん」
「なに、抱えろって?」
冗談交じりに言ってみたが反応はなく、どうも起きる気力がないらしい。
「起きないの?」
「…」
「愛優ちゃん」
「…」
「抱えていくしかないってことかな」
「…」
本格的な寝息を察し、起こすことは諦めた。
仕方ない…
ジャケットを膝下に掛け、力の入らない体を抱き上げる。
「今日だけだぞ」
自然と首に回される腕。
本当に寝てるのか?
そう思いながらも、本当に今日が最後になるような気がする。
弱い雨は本格的な雨に変わり、冷えた空気が頬を撫でた。
よかったよ、無事に帰ってきてくれて。


