女性の声にハッと顔を上げた。
声を掛けてもらえたことが嬉しかったからだ。
「やっぱりね!」
私を優しく見下ろす夫婦に、とてつもなく見覚えがあった。
「隣、お友達?」
柔らかな声のトーンに、ふと記憶が蘇る。
そうだ、母の友人だ…
「ちがいます…」
声が震えていたので、恥ずかしくなって俯いた。
あとは首を横に振るのが精一杯だったが、腕を引っ張ってもらえた。
「こっちおいで」
女性の背後に身を隠すと、隣にいた男性がまっすぐ彼を睨んだのがわかった。
表情は変わらないが目だけが冷たく、射抜くような強さを帯びている。
「嫌がってるでしょ?」
逃げるように踵を返す彼の背中を確認し、思わずホッとため息が出る。
「大丈夫?何もない?」
「ないです…ありがとうございます」
「良かった、たまたま通ったの。見覚えのあるお顔だと思ったら…」
そう言って背中を擦ってくれる女性にお礼を言おうと顔を上げたら、隣の男性がさっきの表情とは打って変わってとても優しい表情をしていた。
それで気がついたんだ。
それが奏太先生であることに。
「すみません…」
「怖かったよね」
頷くのが精一杯だったが、なんとか声を絞り出した。
「怖かった…です」
堪らず再度俯き、顔を上げることができない。


