*愛優side*
少し遅くなった。
思った以上に話が弾み、友人の家を出る頃には外の店が閉まり始めていた。
予定より遅くなる、と母にメッセージを打ち込み、送信ボタンを押す。
すぐに既読がつき、「わかった」と返事があった。
そんなやり取りに夢中になり、しばらくの間スマートフォンの画面を見ていた。
だから気が付かなかったんだ。
隣に身を寄せた彼がいたことに。
「ひとり?」
声にハッとなり、顔を上げる。
顔を覗きこむように視線を合わせた彼は、私より何個も年上に見えた。
「いえ…」
「ひとりでしょ?少しだけご飯いかない?」
「ひとりじゃないです」
顔を伏せ、できるだけ人通りの多い通りに向かって足を進める。
「すごい可愛いなって思ってさ」
「ごめんなさい」
彼の方は見ない。
端的に断る。
母に何度も言われてきた。
何度もそうやって回避してきた。
だけど怖いんだ。
断ることだって。
足早に道を歩くうちに、息が少し上がってきた。
声がしなくなったので、巻けたのだと思った。
マフラーに埋め伏せていた顔をほんの少し上げ、横目で隣を見た。
まだ彼がいた。


