*彩菜side*
「えっ?」
菜々が声を上げた。
その声に、前を歩いていた女子生徒が振り返る。
それほど大きな声だった。
「もう一回言って」
「諦めたの」
「どうして?」
「憧れ止まりの相手だって思ったの」
「振られた…ってこと?」
「ううん、告白なんてしてない」
告白どころか、会話さえ。
「どうしてまた…」
あの日、私の中で吹っ切れたものがある。
両手に抱えられていた女の子はきっと…
先輩の声に期待を膨らませていた私は、その姿を見て頭が真っ白になった。
苦しげに呼吸をしていた彼女は、カーテンの仕切りの中へ。
私が見ていたのはそこまでだ。
"謝ることじゃないから"
微かに、そんな声が聞こえてきた。
紛れもなく、先輩の声だった。
「授業、戻ります」
カーテンの中から姿を見せたのは、
先輩だった。
パタン──
扉が閉まる。
私の中で、何かがそっと崩れていく。
そんな気がした。
「具合悪そうね」
ハッと顔を上げると、先生が立っていた。
「湯たんぽ使う?当てておくと楽になるわ」
先生は優しく笑い、それを私へ。
「ありがとうございます…」
「無理そうなら言ってね」
「…はい」
相手がいることは知っていた。
それが誰なのかまでは分からなかった。
昨日までは、知りたいと思っていた。
もしかするといないかもしれない、そんな僅かな期待だってあったのかもしれない。
でも今は?
現実を突きつけられたらどうなるかなんて、考えようともしなかった。
知らない方がいいこともあるのかもしれない…


