*蒼side*
「ごめん…」
ベッドに腰を掛けた季蛍は、視線を床に落としてそう言った。
「謝ることじゃないから」
カーテンで区切られた小さな空間に、一瞬沈黙が訪れた。
「少し休んだ方がいいよ。制服と荷物、あとで持ってきてもらえると思う」
「うん…」
「走るなって言われてたんじゃなかったの?」
「言われてたよ、でも…」
足音が近づくと、カーテンが開いた。
「はい、お水」
「ありがとうございます」
先生からコップを受け取った季蛍は、ゆっくりと喉に水を流し込んだ。
「少し横になって休憩しましょう。ね?顔色があまり良くないし」
「そうします…」
次の授業には出ない方がいい、というのは、自力で歩けなかった季蛍を見ての先生の判断だった。
「蒼くんは?隣に付き添う?」
ベッドの横に椅子を寄せてきた先生が、微笑みながら右手をそこへ向けた。
「先生…」
「ふふ、冗談よ」
そう言って笑うと、颯爽とカーテンの外へ出て行く。
先生のああいうところはずっと変わらない。
それが生徒に人気のある理由でもあるのだけれど。
「じゃあ、授業戻るね」
「怒られない?平気…?」
「大丈夫だよ、先生見てたし」
「うん、でも…」
体育祭を間近に控える今の時期は、授業が重なることも少なくない。
日中の気温がそれなりに上がる時間に行われた今日の授業。
各自休憩時間が設けられている中、慌ただしかったグラウンドの一角。
「倒れた生徒がいるらしいよ」
噂伝いにそんな話を聞いた。
友人がその様子を遠目から見て、
「熱中症かな?」
そう呟き、
「あぁ、そうかも」
そう返事をしたのを覚えている。
「蒼先輩」
駆け寄ってきた1人の女子生徒が、俺の前に立ち止まる。
この子誰だっけ…
見覚えのある彼女の名前を思い出す前に、彼女が腕を伸ばし、人差し指を向けた。
「あれ…」
それは、ほんの数分前に友人と見ていたグラウンドの端っこだ。
「呼んでこいって先生が…」
彼女の言葉に、思わず首を捻る。
どうして俺を?


