*彩菜side*
「あーやな」
背後から突然声を掛けてきた菜々が、窓の外に身を乗り出した。
「誰見てるの?」
「ううん、別にー」
「あーあ、蒼先輩かぁ」
「ち…違うよ!」
「図星」
「……。」
「声掛けてみたらいいじゃん」
「無理だよ…、彼女いるの知ってるでしょ?」
「うん。…だから?」
「だから無理なの!」
「声掛けるだけだよ」
「ダメだよ、何かあったら困るし…」
「何かって?」
「何かって何か!」
「そんなこと言ってたら何も始まらない」
「何もしなくたって先輩とは何も始まらないよ!?」
「だったら話し掛けるくらい大丈夫だよ」
「…ううん、いいの」
上から眺めているだけ。
それで十分。
あの人は、遠すぎる存在だ。


