「雨、すごいですね」
外来から戻った高島が窓の外に目を向けながら呟いた。
「やむのかな」
「いや、朝までみたいですよ」
「そう…ほんと、シナリオ通りだな」
「いやですね、今日みたいな天気は」
「気分が落ちるよね」
「ほんと、元気じゃないことが正解って感じがします」
「外来多かった?」
「混んでましたね、頭痛、咳、動悸がする…半分くらいはそんな感じで」
「やっぱりそうか」
不調を感じていなくても、あの空を目にするとなんとなく気分が落ちる。
体に現れるものがない分まともに仕事ができているが、季蛍にとってはそんなものじゃないだろう。
気圧はきっと肺の奥を圧迫するような重さを与えている。
自覚するほど顔が浮腫み、喘息を誘発し、雨のじっとりとした嫌な質感が体にのしかかっているに違いない…
「…季蛍に声掛けていいですか?早上がりってことで」
「一応さっき聞いたんだけど…」
モニターから部屋の奥に視線を移した高島がポツリと呟いた。
じっと確認しなくとも、嫌な気配を感じているらしい。
今から一時間以上も前に声は掛けていた。
プリンターの印刷を待つ間、さり気なく
「帰る?」
と聞いたのだが、首を振り「大丈夫」ととてもぎこちない笑顔を向けたのだ。
気が変わっている可能性も…ありえるな。
椅子を正面に向けて悩む矢先、医局の空気に動きがあった。
季蛍が再び席を離れたのだ。
少し小走りで横を通り抜け、部屋を出ていく。
高島が不安そうにその背中を見送ったあと、首を傾げた。
「処置室ですかね」
「今日二回目」
「あぁ、二回目かあ……」
手を止めた高島が作業を中断し、椅子の背の白衣を手にする。
「見てきます」
「…あ、呼んでるよ」
医局の入り口で控えめに顔を出した看護師が、何度か高島の名前を呼んだ。
「すみません、離れます」
「うん、大丈夫」
呼び出しに応じる彼を背に、キリがいい作業を止めて席を立つ。
「行くか…」


