*季蛍side*
回診の付き添い、カンファレス、病棟への訪室…
会議の途中で頭痛がひどくなり、白衣のポケットに忍ばせていた薬を飲んだ。
ようやく医局の自席に戻り、ぬるい水を口に含んで一息つく。
午前中より人が減って静かになった室内に、エアコンの低い音が響いていた。
重い頭痛……浮腫んだ瞼、浅い呼吸。
白衣を脱いで背もたれにかけ、椅子に座る。
体を深く預けた瞬間、張っていた背筋がじわりと緩むのがわかった。
毎度のことだと割り切ってはいるものの、体にのしかかる重みに押し潰されそうになる。
今回だって先手を打って薬を飲んでいたのに、それをも跳ね返すほどの重圧だ。
少し目を伏せた。…いや、軽く目を閉じたつもりだった。
そのまま、ほんの数秒。
気のせいじゃない。
肩の奥に鈍い重さがあった。
深呼吸をしてみようとする。
けれど肺の底にわずかに引っかかるような違和感があった。
呼気が浅い、そんな感覚。
それがただの違和感なのか、それとも嫌な気配の足音か…まだ確信が持てない。
置いたばかりのペットボトルに手を伸ばし、もう一度傾ける。
ぬるいはずの水が刺激になり、喉に違和感が走った。
モニター上の文字が揺れるような細かい咳が現れる。
大丈夫…いつものこと。
薬は飲んだ、吸入もしている。
ただ今日は……効いていない気がする。
誰にも悟られたくなくて、画面を凝視するしかない。
小さく、けれど確実なしんどさが、波のように押し寄せてくる。
気圧とともに自分の身体が沈んでいくのを、静かに感じていた。


