*蒼side*
「蒼先生、天気見ました?」
不意に背後からそんな声がかかった。
「天気?見てない」
医局にやってきた高島がスマートフォンの画面を見せてくる。
「なにこれ」
「とんでもないですよ」
「爆弾低気圧?」
「嫌な予感がしませんか?」
「めちゃくちゃする」
「ですよね〜」
目を細めて画面を見つめると、"気圧の急激な変化に注意"という赤文字が踊っている。
「知ってたら置いてこなかったな」
「朝どうでした?様子」
「いや…何も違和感はなかったけど」
…とはいえ、まじまじ顔を合わせたわけではない。
眠たそうに準備をする季蛍に先行って〜と促され、なにも疑うことなく一人で出勤した。
別々に出勤することは結構ある。
帰宅時間が全く同じであることは早々ないからだ。
珍しいことじゃない…
「あ」
高島が何かに気がついたように声を上げ、入り口に視線を移す。
「…あ」
二人で追うように視線を向ける先に、白衣の袖を整えながら出勤する季蛍の姿があった。
「おはようございまーす…」
いつも通りの声色。
何事もないかのような堂々とした表情で横を通りすぎていく。
「おはよ」
「おはよー、季蛍」
高島が声をかけながら、すれ違いざまに顔をのぞき込む。
一瞬笑ったけれど、明らかにぎこちない。
「今日もお願いします…」
「大丈夫か?今日天気悪いみたいだけど」
そう尋ねた高島に静かに頷くと、
「大丈夫です、たぶん」
と答えてロッカーの方へ消えていった。
「たぶん?」
季蛍の返事に怪訝そうな表情を浮かべながら首を傾げた高島と顔を見合わせ、苦笑し合う。
「とりあえずは元気そうだな…」
「いや、薄々は自覚してそうですよ」
「すでに?」
「蒼先生と一度も目を合わせなかった」
「…たしかに。」
「見抜かれちゃいますからね」
「…まあ、ぐったりしてないだけいいか」
とは言ったものの、いつの間にかデスクに着席していた季蛍が顔をしかめながら一口サイズのチョコレートを口に運んでいた。
「ふは…大丈夫かよ」


