*季蛍side*
「え?」
お店の前にあった噴水を眺めていたら、お手洗いから戻ってきた蒼が手に紙袋を持っていた。
「はい」
「…なに?」
「あげる」
「…」
紙袋の側面には一番最後に立ち寄ったショップの名前が見える。
「え!?…なんでわかったの?」
欲しかったけど、諦めた。
かわいいなあと思ったけれど、買わなかった。
鏡越しに色をあて、やっぱり欲しいと思ったけれど戻していた。
アイボリーのマフラーを。
「欲しかったんでしょ?」
「欲しかった…」
「かわいいよ、似合ってた」
「…」
鏡越しに当ててみたのもバレてたの?
「ほんとにいいの?」
「うん、いいよ」
蒼の気配は全く感じていなかった。
店内には一緒に入ったが、はじめはそれぞれ別の場所を見ていたんだ。
なのに…
「うれしい…ありがとう」
手元には、諦めたマフラーがある。


