「いいよ、次背中」
くるりと椅子を回すと、そっと背筋を伸ばす。
看護師がシャツを軽く上げ、聴診器を温めながら手を差し込んで背中に当てる。
「吸って…吐いて…もう一回……うん、いいよ」
椅子を正面に戻すと、充血した目を捉えた。
今日もほとんど寝ていないのだろう。
「発作は頻繁?」
「最近は…でも、そういう時期だってわかってます」
言葉の途中で視線を逸らし、膝の上でぎゅっと拳を作る。
普段よりも痩せた肩まわり、血色の悪い顔色。
目が合うと、気まずそうに視線が泳ぐ。
「睡眠薬飲んでみる?」
「…いいですか?」
「いいよ。飲むのが嫌なら出さないけどね」
「あったほうがいいです…」
「じゃあそうしよう。まずは短期間だけ少量で出すから、様子見ながら飲んでね」
「ありがとうございます…」
「喘息は今の吸入で様子見て?あまりに続くようなら考える」
「わかりました」
「食事は無理しなくていいよ。頑張ってるみたいだし」
「はい…それなりに食べてるつもりです」
「うん、焦らずね」
パソコンの画面に視線を移そうとしたら、安堵した様子の季蛍が深く息を吐いた。
「もっとキツく言われるかと思った…」
「…なんで?」
「自分でも引くくらい体重落ちたから…」
「キツく言わないでしょ、いつも」
「…」
「え、言ってる?」
「言ってない…です…」
言わせたような季蛍の返事に、背後にいた看護師がクスクスと笑う。
「圧で言わせましたよね、先生」
「ふっ、ごめん」


