病室で着替えを整理していたら、診察を終えた高島が両手で小さくバツを作った。
病室の外へ外出NGの合図。
頷くと布団を直し、季蛍に何か声を掛けて椅子を元に戻す。
「戻りますね」
「ありがとう」
「蒼先生って今日帰ります?」
「その予定」
「わかりました」
少しでも見に行けるならと相談していたが、診察の結果やはり難しそうだ。
「季蛍、ちょっと食欲ある?」
「…ごはん?」
「ううん」
隠し持っていた箱をテーブルに置くと、目を丸くした。
「ケーキ?」
「かわいいでしょ」
サンタクロースと雪だるまをイメージしたクリスマスのケーキ。
ひとつが手のひらに乗る大きさだけれど、それがまた、かわいい。
「かわいい」
「今日だけの限定」
「高島先生、いいって言ったの?」
「もちろん」
「ごはん食べなかったのに?」
「はは、親じゃあるまいし」
「そうだけど…」
「食べられるならなんでもいい」
小さく頷いた季蛍がベッドの上で膝を折り、ケーキの箱をそっと引き寄せた。
「どっちがいい?」
「……じゃあ、雪だるま食べたい」
小皿に移して目の前に差し出すと、「いただきます」と呟いて、控えめにフォークを入れた。
「……おいしい」
しっとりしたバニラムースの中に、ほんのりと酸味の効いたベリーのソースが隠れていた。
「おいしい?よかった」
ぺろりと平らげた季蛍が、ケーキに刺さっていた柊のピックを大切そうに手のひらへ。
「ケーキ食べられるなんて思わなかった」
「うん、よかった」
「わざわざ買いに行ってくれたの?」
「ふと思いついてさ」
「ありがとね…」
病室で過ごすクリスマスは初めてだ。
外に出ることが叶わないのは残念だけれど、今は一日でも早く退院させたいと思う主治医と全く同じ気持ちでいる。
年越しまでには退院したい。
退院させたい。


