*陽side*
「体起こせる?」
「うん…」
壁と背中の間に港がクッションを挟んでくれたので、そこにゆっくり体を預けた。
少しの間眠れたのに、体のだるさはちっとも変わらない。
それもそうだ…まだ薬が飲めていない。
「お腹びっくりするから、少しずつね」
深めのスプーンに乗せられた桃の甘い匂いが鼻をくすぐった。
目の奥が少しじんとした。
「食べられる?」
口を少し開くと、隙間からスプーンが入る。
ほんの少し緊張しながら、舌の上で受け止めた。
「ん…」
口いっぱいに広がる、やわらかな果肉のふくらみ。
繊維はすっかりほどけていて、歯を立てる必要もないほどに優しく身が崩れていく。
じゅわっと果汁がしみ出た奥に、はちみつのほのかな甘さがある。
「……おいしい」
「よかった。身、固くない?」
「うん…あまい」
喉の奥を通ったあとも、桃の甘い余韻がじんわり残る。
桃本来の、包み込むような甘さが。
「もうひと口いってみる?」
スプーンがまた、やってくる。
無意識に口を開け、それを受け入れた。
ふわっと香る桃の香り…
「港が作ったの…?」
「うん、…何点?」
「120点…」
「はは、ほんと?嬉しい」
「もっと食べたい…」
「すごいね、…よかった」
噛みしめるように呟いた港が、もう一度スプーンを口に運んでくれる。
「いちご、買えなくてごめんね。ほかに食べられるものがあればと思っていろいろ選んだんだけど」
ベッドサイドに置いていた別の器を手に取った港が、少し傾けて中を見せてくれた。
「少し食べる?」
白い皿にひと口サイズのスイカがころんと並んでいる。
「うん…食べる」
少し冷たさを感じるスイカの角が唇に触れた。
歯が入った瞬間にしゃりっと小さな音がして、中から水分があふれた。
水は飲みたいと思えなかったけど、この水分は嫌じゃない。
ひんやりした水が舌をなでて、甘い後味が口の中に広がる。
少し青い匂いが鼻を抜けたあと、喉に潤いを感じた。


