*港side*
風の音が少しずつ弱まり、ドライヤーのスイッチを切った。
髪の毛全体を指先ですくい上げ、湿り気がないか確認してブラシを通す。
「よし、完璧」
「ありがとう」
髪に指を通した陽が、嬉しそうに「サラサラ〜」と呟いた。
「あ、待って…ドライヤー貸して?」
陽が椅子の向きを変え、ドライヤーを手にドヤ顔をする。
「港の髪、私が乾かす」
「え?あぁ、もう乾いたよ?」
「じゃあ、触らせて?」
頭を下げると陽が指先で髪の毛を掴み、首を横に振る。
「だめ、まだ濡れてる」
「そうかなあ」
「ちゃんと乾かさないと、とんでもない寝ぐせになるよ」
「ふはっ、とんでもない寝ぐせって」
「くるくるのボワボワになる」
「それは嫌だな」
「でしょ?」
陽が立ち上がろうとしたので、それを制してその場にしゃがむ。
「じゃあ、お願いします」
「はぁい」
嬉しそうな声が聞こえたあと、低音とともに温風がやってくる。
乾かさないととんでもない寝ぐせ…
説得させる文言が陽らしくて可愛かったので、無意識に口元が緩んでいた。
しゃがんでいるおかげでこの顔を見られずに済むので助かった。
見られていたら問い詰められていただろう。
髪の根元に風が当たると、まだ完全には乾いていないことに気がついた。
陽の言う通りだったな。
「できた」
風が静かにやみ、髪の毛に熱気がこもる。
「あ、待って」
立ち上がろうとした肩を制され、ブラシが何度か行き来した。
「…今度こそ、できた。」
そこで初めて立ち上がり、鏡に自分を映す。
「陽、完璧じゃん。美容院帰りみたい」
「も…なんでも褒めるんだから」
そうは言いつつまんざらでもなさそうな陽が、ドライヤーを元の位置にしまった。
「ありがとね」
「うん……あのさ、」
「ん?」
「…また一緒に入ってくれる?」
照れたように俯いた陽が、少し上目遣いのまま顔を上げた。
「毎日でも入る」
「ふふ…」
どこか満足気に笑い、お腹を少し傾けて体を寄せてくる。
「正直でかわいいねぇ」
「…ばかにしないで」
「してないよ?心の底からかわいいと思ってる」
乾きたてのふわふわした髪の毛に手を乗せると、動きがあるたびに甘い香りが微かに香った。
「明日、体調良かったら新しい入浴剤買いに行く?」
「…!行きたい…」
嬉しそうに目を見開いた陽が、ゆっくりと立ち上がる。
その様子を見届けたあと、二人で寝室に向かった。
*おわり*


