*港side*
キッチンを片付けていたら、背後から柔らかな足音が聞こえてきた。
振り向かずとも、それが誰かはわかるのだけど。
食洗機に最後のひと皿をそっと入れたとき、その気配がすぐそばにあることを察知する。
何気なく体を向けると、なにかを言いたげの陽が少し上目遣いでこちらを見上げていた。
「ね、あのさ…」
声のトーンがほんの少しの迷いを含んでいる。
甘えたいときの声とは違い、なにかを切りだそうとしているようにも感じた。
「ん?どした?」
言いづらそうに視線を泳がせたけれど、その目がばっちりと合う。
「あとで時間空いたらさ…」
「うん」
「一緒にお風呂に入ってほしい…んだけど…」
語尾はほとんど囁くような声だった。
少し照れたように俯く陽が可愛かったので、自然と笑みが出た。
たまらず背中に手を回してそっと抱き寄せると、安心したかのように寄りかかってくる。
「いいよー」
「ほんとう?ありがとう…」
顔を上げてふわっと笑う。
「頼りにしてもらえると嬉しいんですよ、俺は」
「でもごめん…本当にあとでいいから…」
「食器しまったら行けるよ、すぐ終わるから」
「ごめんね…全部任せちゃって」
「当たり前だから」
「ありがとう……じゃ、まってるね?」
そう言い残してそそくさとリビングへ消えていく。
再びキッチンに向き直り作業を再開させるも、今すぐに投げ出して向かいたくなるような気分になった。
そんなセリフを陽が残したのだ。


