*港side*
「うどんが食べたい」と言い出したときは耳を疑った。
だが、涙しながら美味しそうに食べる陽を見ていると、幸せな気持ちで満たされて自分がどうにかなりそうになった。
でもよかったよ、本当に。
「急にうどんが食べたくなったの?それとも、ずっと頭にあったとか」
「ううん。先生が食べやすい食べ物を言ってたでしょ?ゼリーとか、アイスクリームとか…」
「うん、言ってたね」
「冷やしうどんって聞いてから頭から離れなくなっちゃって…喉がおいでよ〜って言ってる感じがずっとしてて」
「ふふっ…なにそれ」
「それで、食べたいなって思ったの…」
「そっか、なるほどね」
「ね、港」
「ん」
「本当は今日、こんなに早く帰れる予定じゃなかったよね…でも、私があんなだったから変えてくれたんでしょ?」
「…うん。変えられるから変えたの。陽はなんにも気にしなくていいんだよ」
「うん…そうだけど」
「もしかしたら絶対に変えられない日があるかもしれない、手術の予定があったりね?でも今日は大丈夫。自分の心配をしましょう」
「…うん。病院についてきてくれてありがとう」
「いいえ。陽も、ありがとう。毎日赤ちゃん守ってくれて」
ふふ、と照れくさそうに笑う。
「陽、気づいてなかったけど、店員さんがちょっと涙ぐんでたよ」
「そうなの?…知らなかった」
「伝票持ってきてくれたとき、陽がおいしい…って言いながら涙拭いてたから」
「恥ずかしい…見られてたなんて」
「嬉しそうだったよ」
「うん、でも伝わってほしい。泣くほど美味しいうどんだったから」
「よかったね」
「また来てくれる?…一緒に」
「もちろん」
*おわり*


