木目調のテーブルに落ちる午後のやわらかい光。
目の前に置かれたのは、氷の浮いたガラスの器に盛られた冷やしうどん。
透き通るような麺に、大根おろしと青ねぎ、刻み海苔が彩りを添える。
「うわぁ…おいしそう」
割り箸を割る手元が少し震えていた。
「いただきます」
「うん、どうぞ」
箸先を伸ばすその勢いに迷いはない。
一呼吸置き、うどんをひとくち口に運んだ。
冷たさが舌の上に広がり、喉をするりと通っていく。
「……どう?」
何も言わない私に向けてとても不安そうな顔をした港が、静かに紙ナプキンを差し出してくる。
「厳しい?」
「…ううん、すっごく、……おいしい」
言葉が出ないとはこのことか、と思った。
おいしい、食べられる、体が受け入れている。
「あぁ、よかった…………よかった…」
港の肩の力がふわっと抜けたのがわかり、両手で顔を覆う。
「なんで港が泣きそうなの……」
私はすでに泣いていた。
目尻からぽろりとひと粒こぼれていた。
「も…港も食べて…うどんが伸びちゃうから」
二人で目尻に涙を浮かべながら食事をする様子がおかしくて、ふた口目からは笑顔が出た。
無理をしてはいないのに、"食べたい"と思える気持ちが確かにある。


