軽くシャワーを浴びて服を着替えると、さっきまでまとわりついていた不快感が一気に消えた。
熱はまだ少し残っているのを感じるが、さっぱりした身体に新しい服。
それだけで、随分と世界が違って見える。
明日の朝までに完全に治るかはわからないので、出勤を代わってもらえたのがかなり心強い。
リビングに戻ると、ダイニングテーブルに湯気の立つ器が二つ並んでいた。
季蛍が自信ありげに顔を上げる。
「じゃーん。なににしようか迷ったんだけど、雑炊にしてみた」
「んー、おいしそう」
ふわりと漂う鶏のだしの香りが食欲を誘う。
「鳥白湯風です」
「最高……」
心の底からの言葉が口をついて出た。
「食欲ある?」
「ある。いただきます」
ひと口、スプーンですくって口に運ぶ。
……おいしい。
体にすっと染み込んでいくような優しい温度と、出汁の深い旨み。
具合が悪いときに誰かが自分のために作ってくれたあたたかいご飯。
これに勝るものなんて、なかなかない。
おいしい…体に染みわたっていくのを感じる。
「ちょっと味、薄かった?」
「…めちゃくちゃおいしい」
声に力を込めてそう返すと、向かいの椅子で同じメニューを食べ進めていた季蛍が満足そうに頷いた。
「高島先生が心配してたよ? 蒼の風邪は珍しいから余計に」
「うん、連絡来てた」
「やっぱり?」
「しかも一件じゃない。同じ内容何通も」
「返事来ないから心配してたんだよ、きっと」
「うん…あとできっちり返事するよ」
スプーンを動かしながら会話が続く。
「昨日、すっごい疲れた顔してたよね。謎が解けた」
「いつもより疲労感はあったけどさ」
「熱出る予兆だったんだね」
「目が覚めたとき、嘘であれと思った」
「今もあんまり呂律回ってないから笑っちゃう」
「まじ?」
「まじ」
「あんまり自覚ない」
「だってまだ熱あるもん、早く寝たほうがいいよ」
「…うん、そうする」


