「本当にすみません。連絡するの迷ったんだけど…」
「全然大丈夫です!今日は仕事がなくてよかった」
やわらかく笑った季蛍さんが陽と一緒に家の中へ入っていく。
顔もろくに見ず消えていった陽が正直心配ではあるが、呼び止めて声をかけるほどの余裕がない。
二人が家の中に消えていくのと同時に、入れ替わるように蒼が顔を出した。
「辛そうだ」
「うん…自分にできることってマジでないんだなって実感する」
「はは…そっか。午後は病院連れて行くんだよね?」
「うん、できればそうしたい」
「相当しんどいみたいだな」
「でも、たかがつわりなんだって、病院なんか行ったらダメなんだって言っててさ」
「陽さんが?」
「出先で知らないおばちゃんに言われたみたいなんだよね、そういうことがあっても乗り越えられるのよ、母親になるんだからって」
「理解できないな…見ず知らずの妊婦に」
「本当に余計なお世話、その場にいてやりたかった」
「知り合いでもないのにね」
「陽が本当に可哀想でさ…」
「…。午前勤務でよかったな」
「いや、本当は……。ちょっと無理言ったらどうにかなったけど」
「あぁ、なるほどね。うち、いつでも預かるから」
「ありがとう…俺まで泣けてくる」
「ふっ、泣いてる暇ないでしょ。季蛍がいるから安心して」
「本当にごめん、お願いします」
「気をつけてよ、車。港がどうにかなったら困るから」
「わかってる、ありがとう」
頭を下げたら、「やりすぎ」と笑った蒼が肩を叩いた。
頼もしい。
この夫婦が頼もしすぎる。


