泣き疲れて少し落ち着いた頃合いを見て、新しいティッシュを取りに行く。
ついでに涙で流れた分の水分を取り戻してもらえるよう、空になったグラスに再度水を注いだ。
「陽、ちょっと落ち着いた…」
ソファに座っていたはずの陽が立ち上がり、なにか小さい箱を手にしていた。
「それ何…」
と言いかけて、箱の正体を知る。
「よくわかったね、あった場所」
市販の吐き気止めだ。
妊婦への使用は推薦されない、むしろ避けるべき成分が含まれている。
陽もわかっている、理解している。
それでも手を出したくなるほどの気分なのだろう。
「陽、ちょーだいそれ」
目に溜まった涙が今にもこぼれ落ちそうだ。
そんな陽の目が離せなくなる。
「気持ちが悪い…」
「…うん、そうだよな」
常備薬は棚の上で保管している。
手を伸ばして取ったのか?
この際手段はなんでもいい。
少し目を離した隙によくやるよ…
「ごめん…」
その声に、追い詰められた弱さがにじんでいた。
うつむいた陽が、唇を噛んだ。
「陽、責めてないからね?」
開封すらされていない薬の箱を受け取り、ソファに座るよう促す。
「明日病院行こうか、先生に相談しに行こう」
「行かない…」
「行かないの?」
「病気じゃないから…ただのつわりだから」
「なんで、行っていいんだよ」
「だって、なにも飲めないんでしょ…」
「先生に出してもらえるお薬は飲めるよ?漢方薬だってあるし、陽に合ったものを処方してもらえるの」
「…」
「誰かに言われたの?病院なんか行かなくていいって」
「……」


