袖を捲り、シャワーの蛇口を捻る。
スローモーションのような遅さで椅子に腰を下ろした陽が、留められた髪を解いた。
「どう?湯加減」
「んー、ちょっと熱い」
「了解」
「少しぬるめがいい…」
「…どう?」
シャワーに手のひらを通した陽が、満足そうに頷いた。
「大丈夫、ありがとう」
背中にそっとお湯を流すと、力が抜けていくのがわかる。
頭のうしろからシャワーを当てると、ふわっと濡れた髪が肩にしっとりと張り付いた。
「こーう、腰痛くなっちゃうよ?」
「陽が転ぶよりマシだからね」
「もう転ばないから」
「説得力ありません」
「心配しないでって言いたいの」
「心配するしかないだろ、むしろ」
「…。」
細くて柔らかい髪を持ち上げて、軽く泡立てたシャンプーを全体に馴染ませる。
「痛くない?」
「うん、……気持ちいい」
前髪から頭の後ろまでを適度な力で丁寧に洗っていくと、体の力が徐々に抜けていくのがわかった。
湯気とともに甘いシャンプーの匂いが広がっていく。
額にそっと手を当てながら、泡が目に入らないように気を配った。
シャワーの角度を調整しつつ、ふわふわになった泡をゆっくりと流していく。


