負けたのは私、勝てるはずもない。
あれだけ威張っていたくせに、今じゃまんまと胸の中。
安心する匂い、大好きな手。
「検診行ってきたの?」
「うん…」
「そっか、ありがとう」
「…」
「ひとりで心細かったね」
「…うん」
「どうだった?」
「大丈夫…何も問題なかった」
「よかった」
頭をわしゃわしゃと撫でられた。
目尻に滲んだ涙を拭われ、頬に唇が触れた。
「陽、大好きだよ」
「…ん」
「どうしたらまた好きになってもらえる?」
ワイシャツを握りしめ、声を絞る。
「……すき」
「ん?」
「…すき」
「ん、なに?聞こえない」
本当に意地悪だ…
「好き…わたしも好き…だから…」
「んふふ」
「だから、嫌いにならないで…」
驚いた港が少し体を離し、再びぎゅうっと抱き寄せられる。
「嫌いになんかなるわけないでしょ」
港の温もりをより強く感じたくなり、思わず目を瞑った。
気持ちはとても軽くなっていた。
「一人にされて嫌だったね。悲しかったね」
「ッ…ん、ッん……ごめん……ッ」
「うん、陽の気持ちわかるから大丈夫」
頭の後ろに回った手のひらで、髪が何度も撫でられる。
「ご飯作るからお風呂入ってきな?」
「んーん、一緒に入る…」
再び少し体を離し、目を丸くした港がケラケラと笑った。
「一緒に入る?じゃあ、あとで」
噓のように軽くなった気分。
大好きな人の言葉ひとつで、ウソみたいに楽になる。
だいすき。
*おわり*


