「早く帰るって言ったもん…」
とめどなく流れる涙をティッシュで拭われる。
子供レベルの文句を聞き入れ、ずっと頷いている。
本心ではないのに自制できず、情けない声が漏れてくる。
「もう信じない…」
「うん、そうだよな」
「もう…港…きらいだから…」
「ふっ…そうなの?」
「…そう…だよ?」
泣きながらもあまりに惨めな自分に笑ってしまい、目を逸らした。
「俺は好き」
「…わたしはきらい」
「俺は陽が好き」
「……わたしは港が…きらい」
「うん、わかった。俺は好きだけど」
「…」
「すごい好きだけど」
「……」
「世界一陽が好きなんだけど」
「…ん」
顔を上げたら、なぜかドヤ顔をしていた。
「でもきらいだから…」
「そっか。わかった」
取り乱しているだけだというのも、港はきっとお見通しなのだ。
本心ではないということも…
「他に言いたいことは?」
「…だいきらい……ッん、ッふぇッ…」
「ふふ…」
至って真剣なのに、割と真面目に怒ってるのに。
泣いちゃうんだ、どうしても。
「ぎゅ、しないの?」
「…」
「嫌いだからしないかぁ」
「…」
「しないんだよね?」
広げられた大きな腕に吸い込まれそうになる。
体が無意識に前のめりになる。
「陽、ぎゅ、しよ」


