玄関のドアがカチャリと開いた。
それだけで胸がぎゅっと締めつけられる。
待っていた音。ずっと、ずっと耳を澄ませていた音。
少しして、廊下の電気がつき、続けてリビングのがパッと明るくなる。
突然の明るさに思わず目を細めた。
足音とともに、微かに驚く港の声が部屋に響く。
「陽…」
近づく足音に顔を伏せ、そっぽを向く。
泣き腫らした目も、赤く染まった鼻も、ぐしゃぐしゃな感情も。
全部、隠しておきたかった。
…けれど。
「ごめん、遅くなって」
待っていた声に我慢ができず、顔を上げる。
「あらら、泣いてたのね」
港が小さく眉を下げてしゃがみ込み、目線を合わせてくる。
その柔らかな声に、隠していたものがすべて剥がれていくようだった。
ひどい顔をしているのだろうと自覚はあったが、気にする余裕はない。
「遅い…」
ポロリと出た言葉に目を丸くした港は、はにかんで頷いた。
「そうだよな。ごめん」
その言葉を聞いた瞬間、止まっていたものが再びあふれる。
「っん…っん…グス…ッ」
「目腫れるまで泣いてたの?ひとりで」
「港のせいだから…ッ」
ようやく絞り出した情けない声。
責めたかったわけじゃない……
「うん、ごめん」
すべてを受け止める声だった。
その一言に、言葉にならない嗚咽がせり上がる。
最低なのは私……
港は働いていただけ。
私のために、生まれてくるこの子のために。


