*陽side*
バタン、とドアが閉まった音がやけに大きく響いた。
産婦人科の検診から帰宅した。
誰もいない部屋に一人。
無意味に流れ続ける涙を、服の袖で拭う。
どうして泣いているのか、自分でもわからない。
なぜか病院を出た直後、溢れた涙が止まらなくなった。
検診の結果は何も問題なかったし、先生は「順調だ」と教えてくれた。
穏やかに終わったはずだった。
不安なことは何もない…
なのに。
ポロポロ溢れる涙を拭いながら、リビングのソファに腰を下ろす。
上着を脱ぐこともできなかった。
時計が18時ちょうどを指した。
カチ、カチ、と刻まれる秒針の音が、どこまでも無機質に響いて、煩わしく感じる。
誰にぶつけることもできないこの気持ちを処理できず、涙になるのだ。
待合室で幸せそうに寄り添う2人。
大きなお腹を撫で合う2人。
あの光景は微笑ましいはずなのに、見ていられない自分がいたのは確かだった。
涙が出るのはなぜなの?
膨らんだお腹に手を添え、唇を強く噛み締める。
泣いちゃダメだ。
私が弱くてどうするの?
これから先はまだ長いのに。
一度は涙も引っ込むくせに、ぼーっとしていたら無意識に涙が頬を伝っている。
拭っても拭っても、伝っている。


