「夏来も寝ちゃったの?疲れてたんだね」
蒼の胸に抱かれた体を見て、愛優が微笑んだ。
「ね、全然起きないんだもん」
駐車場に広がる雨の匂い。
自宅まであともう少し。
「…ね、あのね」
言いづらそうに口を開いたのがわかったので、私も蒼も、思わず愛優の顔を見た。
「どうした?」
先に蒼が問い、少しうつむき加減の愛優を心配そうに見る。
私も同様だ。
「あのね…」
夕方の少しぬるい風に髪が乗り、うつむく横顔を隠した。
思わずそれを指で払い、表情を見る。
泣いているような気がしたからだ。
「なに、どうしたの…」
涙は出ていなかったが、切ない表情に見えた。
「体調悪いの?」
少し後ろを歩く蒼がそう言ったので、絶対にそうだ と思い 返事を待った。
しかし、首を横に振る。
「全然そんなんじゃなくて…」
「うん」
「すごい、今日…楽しかったなって」
「…」
思っていた返事とは少し違ったせいか、咄嗟に言葉が出なかった。
「あはは、それだけ?」
蒼が笑うのが聞こえて我に返り、思わず聞く。
「ほんとにそれ?」
「ふふ、うん」
「なんだ…びっくりした」
体調が悪いのだと一瞬心配したので、内心ホッとした気持ちのほうが強かった。
「…また来れるよね?みんなで」
思わず蒼と顔を見合わせる。
「…なんだ、それが聞きたかったの?」
「楽しかった」で終わらなかった。
それが切ない表情の理由だったのだ。
「休みの日はいつでも行かれるよ」
咄嗟に蒼が返事をしたので、ホッとした表情で愛優が頷いた。
顔に出さないだけで夏来の面倒を見ることが負担になっているのではないかと、私たちも心配していたのだ。
「ふふ、そんなに楽しかったの〜?」
「そうだよ…」
照れくさそうに少し先を歩く背中を追い、肩を抱いて顔を覗き込んだ。
「本当に今日助かったよ。ありがとね」
*おわり*


