*季蛍side*
久しぶりに家族4人で外へ出た。
万全な体調とは言えなかったが、寝込むほどのものじゃない。
明け方の喘息が少し鬱陶しく長引いただけだ。
「愛優、そんな服持ってたの?」
「お気に入りなの」
「可愛い、よく似合ってる」
「本当?ありがとう」
ふわふわと巻いた毛先が風に揺れる。
「待って!」
楽しいところに出掛けるのだと興奮した夏来が走り出し、すかさずその手を愛優が掴む。
「駐車場は危ないよ?」
「わかってる!」
「お姉ちゃんと一緒に行こうよ〜」
「きゃはは、やだ」
「え〜なんで?」
後ろから見る身長差すら愛おしい。
弟に優しい姉、そんな姉が大好きな弟。
仲が良くて何よりだよ。
「なんか肩で息してない?」
背後から声を掛けられ、思わずビクッと反応してしまった。
なんとなく足早に避けていたつもりだったが、それすらも見破られていた。
蒼は今朝の騒動を知っている。
気づかれぬよう薄暗い寝室の毛布にもぐり込んでいたのに、それが無意味だったのだ。
今日は前から予定していたお出かけだから。
私を理由に予定変更なんて絶対にしない。
蒼が何かを言う前にと逃げまわり、なんとか外へ出たのだ。
「してないよ?」
「ふーん」
「…絶対二人の前で言わないで」
「わかってるよ」
「本当に大丈夫だから」
「…」
「薬も飲んできた、バッグにも入ってる。だから今日は見逃して」
「なにも言ってない」
「顔に書いてある」
「隠すから気になっただけ」
「別に隠してない…」
「我慢だけはしないで」
「…」
「約束」
「わかった」
「楽しもう、せっかくだから」
「…ありがと、心配してくれて」
前を歩いていた二人が先に車へ到着し、待ちわびた顔でこちらを見る。
「パパー!鍵開けて?」
「いま開けるー!」


