「ねぇ、アイスってなんのこと?」
飲ませる薬を用意していたら、別室で服を着替えさせていた季蛍が言った。
「アイス?」
「食べるって言って聞かないよ。すごく不機嫌」
「車の中で食べさせたけど…」
「食べたいって泣き出した」
「残したもののことを言ってるならないよ。途中で寝たから溶けちゃったし」
「ひとつしか買ってない?」
「買ってない。よこせって?」
「思い出しちゃったんだと思う」
「それは困る」
カップに溶け残っていた量はほんの僅かだったが、最後まで食べ終えていないことだけは記憶にあるようだ。
冷凍庫の中を確認すると、チョコレート味のカップアイスが一つ。
季蛍はそれに不安そうな顔をするが、恐らく結果は当たっている。
「体調が悪い上にすごく眠いはずだから、機嫌悪いの」
怪訝そうな顔をする季蛍と別室に移ると、毛布に顔を押し付けていた。
「夏来、アイスクリーム!」
パッと顔が上がるが、「ちがう」と呟いた。
今にでも溢れそうな涙が、目尻にじんわりと溜まっていく。
「これしかないの、あとで買ってくる。だから薬がんばれる?」
ポロンと涙はこぼれたが、首は縦に動いていた。
すかさず季蛍が指でそれを拭い、優しく体を抱きしめる。
「良くなったら誕生日会しようね。絶対」
「うん…」


