*高島side*
「どうぞ」
控えめなノックの音が聞こえたあと、ドアが静かに開いた。
椅子に手のひらを向けるが、診察室の扉を押さえたまま体が動かない。
「おはよ。入っていいよ」
「…はい」
頷くものの、ドアの向こう側に佇んでいる。
膝下のスカートに厚手のカーディガン。
裾から覗いた脚や手首から、痩せこけた様子が汲み取れた。
今すぐにでも折れてしまいそうだ、と表現出来る程だ。
思わず問診票で体重を確認する。
仕事がある日は服に隠れて見えていなかった体型が露わになると、少しばかり驚いてしまう自分がいる。
思っていたよりも深刻なのではないかと。
「入らないの?」
季蛍の背後からひょっこりと顔を見せた蒼先生が、上手く背中を押しながら椅子に座るよう促した。
「お願いします」
「来てたんですね、一緒に」
「ちょっと心配でさ」
やわらかく笑いながら答えた彼が、季蛍の耳元で囁いた。
「待合室にいるよ」
一瞬ためらうように瞬きをした季蛍が、顔を上げてゆっくりと頷く。
「今日はどこかお出掛けですか?」
なんとなく二人の服装からよそゆきの匂いがした。
「うん、久しぶりに外で食事」
「いいですね。今日は天気良いし」


