咲乃が新しいクラスへ入ると、教室内がざわついた。女子達は一瞬呼吸を忘れたように息が止まり、男子たちは好奇心と警戒心を混ぜたような顔をして咲乃を観察している。
咲乃は、黒板に貼られた名簿を確認した。教室の前方、黒板から三列目。
名簿に指定された席に着席すると、咲乃は周囲の視線の一切に関心を示さずに読書を始めた。自ら誰かに話しかけようとは思わなかった。咲乃は本来、自分から人間関係を築こうと思うほどに社交的な性格はしていない。2年の頃は、神谷の影響があってクラスメイトの中心にいたが、もとより一人で過ごすことの方が好きだった彼にとって、新しいクラスに溶け込めるかどうかはさほど問題では無かった。必要以上に他人と関わることは煩わしく、本を読んで過ごすことの方が好きだったのだ。
教室に担任が来るまでの時間、静かに本のページを捲る。中学生とは思えぬほどに美しく静閑な空気に、クラスメイトの誰もが魅入られていた。話しかけたいと熱望する視線もあったが、咲乃の視線は活字を追うばかりで周囲の事は気にも留めていない。
「俺の席どこだー?」
「あ、窓際の席。ラッキー!」
「お前と席近いじゃん」
「俺の席真ん中か。後ろが良かったなー」
突然騒がしくなったと思ったら、4人の男子生徒が教室に入ってきて、黒板の名簿の前に集まった。自分の席を確認して、喜んだり落胆したりと騒いでいる。
「ゆうま! こっちこっち!」
窓際の席に座っていた女子が、黒板の前で騒いでいた男子のひとりに声を掛けた。気付いた男子が女子に向かって手を上げる。
「おっ、加奈! 同じクラス?」
「うん! 沙織は?」
「あいつ6組だって」
知り合いらしく、お互いに同じクラスになって喜んでいる。
咲乃は本を読みながら、クラス分け表の中に「ゆうま」に該当する名前を頭の隅で思い出していた。
自分の教室を確認する際に、たまたまその名前が視界に入った。知った名前だと思ったら、成海が小学生の頃の初恋相手だったと思い至る。その名前は確か、新島悠真だ。
細く整った眉に茶色く大きい瞳。口角の上がった甘い口元。男子にしては甘く、ベビーフェイスで可愛げのあるきれいな顔をしている。髪は緩くパーマを当てていて、校則に触れない程度に制服を着崩していた。
やんちゃそうな見た目は、女子からの好感度が高そうだ。一緒に騒いでいる男子の中でも、見た目は特に良い。
咲乃は悠真の声を耳にいれて、一瞬彼の姿を確認した。あれが成海の初恋の相手かと思うと、少しだけ興味が惹かれた。
「なー、去年有名になったイケメン転校生って誰、どいつ?」
窓際の席に着くと、悠真がきょろきょろと教室内を見回し始めた。そしてすぐに、やけに透き通った肌と、きれいな顔をした男子生徒を見つけた。咲乃を見つけた途端、悠真は顔を綻ばせた。
咲乃は悠真が近づいてくるのを感じて本を閉じると、腰をかがめて顔を覗き込んでくる悠真へ視線を向けた。
長い睫毛の下から覗く黒く揺らめく瞳と、悠真の好奇心に満ち溢れた大きな瞳がぶつかる。悠真は屈託なく笑って、かがめていた身体を起こした。愛想よく、握手を求めるように手を差し伸べる。
「お前、篠原だろ? 有名人だから知ってる。俺、新島悠真、よろしくな」
悠真が自己紹介すると、咲乃はにこりと柔らかく笑って悠真の手を握り返した。
「ん。よろしくね、新島くん」
予鈴が鳴り、担任が教室に入った。前年度に引き続き、増田が3年2組の担任を務める。
「おーい、席に着けー。朝礼はじめるぞー」
悠真たちが席に着くと、増田はひとりずつ点呼を始めた。それに混ざり、悠真たちの「あれが噂の転校生かよ」「マジでイケメンだな」「睫毛長っ」「勉強できるんだって」とひそひそ声が聞こえた。
咲乃は彼らの声を聞き流しながら、成海の“教室復帰”への新たな懸念事項に溜息をついた。
*★*―――――*★*―――――*★*―――――
お知らせ:
〈クラスの王様〉編をもちまして一時休載とし、しばらくの間、制作期間をいただきます。
今後の投稿ペースといたしましては〈○○編〉ごとに毎日投稿を行っていく予定です。
〈クラスの王様〉後の次回投稿日は未定ですが、全話投稿後、半年以内を目標としていますので、また投稿が開始した際にお読みいただけると幸いです。
引き続き、〈クラスの王様〉をよろしくお願いします。
*★*―――――*★*―――――*★*―――――
【新島 悠真】
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【キャラクタープロフィール一覧】
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個人サイト
【Alanhart|THE MAGICAL ACTORS】
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咲乃は、黒板に貼られた名簿を確認した。教室の前方、黒板から三列目。
名簿に指定された席に着席すると、咲乃は周囲の視線の一切に関心を示さずに読書を始めた。自ら誰かに話しかけようとは思わなかった。咲乃は本来、自分から人間関係を築こうと思うほどに社交的な性格はしていない。2年の頃は、神谷の影響があってクラスメイトの中心にいたが、もとより一人で過ごすことの方が好きだった彼にとって、新しいクラスに溶け込めるかどうかはさほど問題では無かった。必要以上に他人と関わることは煩わしく、本を読んで過ごすことの方が好きだったのだ。
教室に担任が来るまでの時間、静かに本のページを捲る。中学生とは思えぬほどに美しく静閑な空気に、クラスメイトの誰もが魅入られていた。話しかけたいと熱望する視線もあったが、咲乃の視線は活字を追うばかりで周囲の事は気にも留めていない。
「俺の席どこだー?」
「あ、窓際の席。ラッキー!」
「お前と席近いじゃん」
「俺の席真ん中か。後ろが良かったなー」
突然騒がしくなったと思ったら、4人の男子生徒が教室に入ってきて、黒板の名簿の前に集まった。自分の席を確認して、喜んだり落胆したりと騒いでいる。
「ゆうま! こっちこっち!」
窓際の席に座っていた女子が、黒板の前で騒いでいた男子のひとりに声を掛けた。気付いた男子が女子に向かって手を上げる。
「おっ、加奈! 同じクラス?」
「うん! 沙織は?」
「あいつ6組だって」
知り合いらしく、お互いに同じクラスになって喜んでいる。
咲乃は本を読みながら、クラス分け表の中に「ゆうま」に該当する名前を頭の隅で思い出していた。
自分の教室を確認する際に、たまたまその名前が視界に入った。知った名前だと思ったら、成海が小学生の頃の初恋相手だったと思い至る。その名前は確か、新島悠真だ。
細く整った眉に茶色く大きい瞳。口角の上がった甘い口元。男子にしては甘く、ベビーフェイスで可愛げのあるきれいな顔をしている。髪は緩くパーマを当てていて、校則に触れない程度に制服を着崩していた。
やんちゃそうな見た目は、女子からの好感度が高そうだ。一緒に騒いでいる男子の中でも、見た目は特に良い。
咲乃は悠真の声を耳にいれて、一瞬彼の姿を確認した。あれが成海の初恋の相手かと思うと、少しだけ興味が惹かれた。
「なー、去年有名になったイケメン転校生って誰、どいつ?」
窓際の席に着くと、悠真がきょろきょろと教室内を見回し始めた。そしてすぐに、やけに透き通った肌と、きれいな顔をした男子生徒を見つけた。咲乃を見つけた途端、悠真は顔を綻ばせた。
咲乃は悠真が近づいてくるのを感じて本を閉じると、腰をかがめて顔を覗き込んでくる悠真へ視線を向けた。
長い睫毛の下から覗く黒く揺らめく瞳と、悠真の好奇心に満ち溢れた大きな瞳がぶつかる。悠真は屈託なく笑って、かがめていた身体を起こした。愛想よく、握手を求めるように手を差し伸べる。
「お前、篠原だろ? 有名人だから知ってる。俺、新島悠真、よろしくな」
悠真が自己紹介すると、咲乃はにこりと柔らかく笑って悠真の手を握り返した。
「ん。よろしくね、新島くん」
予鈴が鳴り、担任が教室に入った。前年度に引き続き、増田が3年2組の担任を務める。
「おーい、席に着けー。朝礼はじめるぞー」
悠真たちが席に着くと、増田はひとりずつ点呼を始めた。それに混ざり、悠真たちの「あれが噂の転校生かよ」「マジでイケメンだな」「睫毛長っ」「勉強できるんだって」とひそひそ声が聞こえた。
咲乃は彼らの声を聞き流しながら、成海の“教室復帰”への新たな懸念事項に溜息をついた。
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お知らせ:
〈クラスの王様〉編をもちまして一時休載とし、しばらくの間、制作期間をいただきます。
今後の投稿ペースといたしましては〈○○編〉ごとに毎日投稿を行っていく予定です。
〈クラスの王様〉後の次回投稿日は未定ですが、全話投稿後、半年以内を目標としていますので、また投稿が開始した際にお読みいただけると幸いです。
引き続き、〈クラスの王様〉をよろしくお願いします。
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