何を言っても興味なさそうな反応しか返ってこない状況に、神谷はどうしたもんかと、思考を巡らせた。

 きっと、これ以上掘っても何も出てこない。本当にただの、係の“仕事”でプリントを届けているだけで、面識すらないのだろう。
 この、人間関係を極端に選ぶへそ曲がり野郎(・・・・・・・・・・・・・・・・・)は、何の理由もなしに自ら不登校生徒に関わろうとするような性格ではない。

 でもまぁ、と神谷は妥協点を探した。津田成海というネタは使えそうだ。事実、咲乃とつながりのある数少ない女子なのだから。盛大に話を盛って、尾ひれをつけて噂を流せばいい。“篠原咲乃が担任に頼まれたプリントを届けていることをいい事に、自分は特別扱いを受けていると思い込んでいるイタイ女子”というレッテルを張り付ければ、ファンクラブのヘイトは確実に津田成海に向かう。篠原咲乃への関心は一時的に反れ、学校での尾行行為は減るはずだ。

「言っておくけど」

 思考が別のところへ飛んでいた神谷は、咲乃に視線を向けた。
 咲乃の瞳の中に鋭く強い光が宿り、挑むような面持ちで神谷を睨む。

「津田さんには手を出させないから」

 神谷は驚いて目を見開いた。咲乃は、神谷のやろうとしていることに気付いて、早々に潰そうとしているのだ。

「せっかく少しずつ前進してきているのにお前のせいで全て無駄になったとしたら、そのファンクラブごと全員潰すから」

 咲乃の目が本気だ。
 神谷は驚きのあまり目を瞬かせると、すぐに目を輝かせた。

「えっ、マジ!? 津田と仲良いの? いつから? なんで?」

 あの、女子全員平等に扱う篠原咲乃に、唯一“特別扱い”を受けている女子がいる。これは、まさに大スクープだ。そして、女子の怒り爆発必須である。危険過ぎて逆に扱えないネタではあるが、強く興味を惹かれた。咲乃に特別扱いを受ける女子とは一体どんな子なのか。

「何そいつすげー気になる! 絶対秘密にするから、津田に会わせろよ、な!」

「やだ」

「……は?」

 若干、むすっとした顔をして咲乃が視線をそらす。神谷は大きな目をぱちくりさせた。

「津田さんをお前なんかに会わせたら、悪影響しかない」

「なんだよそれ! クラスメイトなんだからいいじゃんか!」

 悪影響を与えると言われたことも腹立たしかったが、それ以上に咲乃の反応に神谷は呆気にとられた。
 なんだか咲乃が、自分がみつけたものを独占したがる幼い子供のように見えたのだ。

 咲乃は益々不機嫌そうな顔をした。

「絶対にやだ。お前にだけは会わせない」

 ここまで頑なになると、咲乃は揺るがない。神谷は思いっきり舌打ちをして、絶対に重田とのデマを流してやると心に決めた。