【高嶺の君とキズナを紡ぐ】


 幼い頃から太っていたわたしは、容姿のことでからかわれることが多かった。それが、中学に入ると本格的ないじめに変わった。クラスの女子グループを仕切っていた女の子に、目をつけられてしまったのだ。
 
 毎日のいじめに耐えられなくなって、夏休み前には学校へ行けなくなった。担任や家族には、いじめられていた事を言っていない。下手に問題を大きくされて、いじめていた女子たちに恨まれるのも嫌だったし、いじめと戦う勇気なんて、わたしにはなかったから。

 しばらくすると、担任の増田先生が来た。

「みんな、津田のことを心配しているぞ。少しでもいいから、顔を出してみないか?」

 いじめのことを先生に話したところで、何も解決にならないことはよく分かっていた。わたしをいじめていた女の子は、美人でノリの良いみんなの中心みたいな女の子で、先生のお気に入りだったから。

 無視し続けていると、毎週のように来ていた担任は来なくなり、代わりに「学校からのお知らせ」の紙が届けられるようになった。

 うちの学校では、必要な連絡事項は専用のアプリでやりとりされる。不登校になってからはアプリさえ開いていなかったけど、必要な連絡はお母さんにも届いているはずだし、プリントなんてもらったって、ごみ箱行きになるだけなのにな。

 そうこうしているうちに、気づけば2年生に進級していた。新しいクラスメイトに、誰がいるのかは知らない。もらったクラス名簿は見ずに捨ててしまった。転校生が来ていたことすら、わたしは知らなかった。

「はじめまして、津田さん。同級生の篠原(しのはら)です。最近、転校してきたばかりなんだ。よろしくね」

 ある日突然、部屋の外から男子が語りかけてきた。穏やかで爽やかな、すごくきれいな声だ。

 突然の男子の訪問。こんなこと初めて過ぎて逆に怖い。一体何が目的なんだろう……。

「学校からのプリントを届けに来たんだけど、もしよかったら読んでみてね」

 ドア下の隙間から一枚のプリントが差し込まれた。毎月発行される学校新聞。先月行われた合唱コンクールの様子が書かれた記事が載っている。

「今日は自己紹介だけしに来たから、帰るよ。またね、津田さん」

 柔らかい春の風が穏やかに吹き流れるように、彼はそれだけを言い残して去って行った。


 それから金曜日になると、篠原くん(ヤツ)はプリントを持ってやってくるようになった。不登校のクラスメイトにプリントを届ける役割なんて、ダルいだけのはずだ。家のポストにでも入れておけばいいのに、わざわざ上がって来るってことは、もしかして罰ゲームかな。それか、肝試しとか。2年生になって一度も顔をみたことない、不登校のクラスメイトなんて、不気味以外のなにものでもないもんな。
 そう考えると納得ができて、同時に嫌な気持ちになってきた。そういう、人の気持ちを考えない男子の内輪ノリ、本当にキライ。

「津田さんは、好きな授業とかあった?」

「……」

「趣味とか、好きなこととかあったりする? いつも何をして過ごしているの?」

「……」

 ヤツに対して警戒しまくっていたわたしは、話しかけられても一切答えなかった。ひたすら物音を立てずに、ヤツがいなくなるまで息をひそめて待つ。罰ゲームとか、肝試しだったら、すぐに来なくなるだろうと思っていた。なのに、いくらこっちが無視しても、ヤツは家に来るのをやめなかった。おまけに話しかけてくる。ほとんど独り言だ。

「津田さんは、俺と話したくない?」

 ついに、限界が来たらしい。ヤツは穏やかな声を変えずに言った。
 話したくない。だって、顔も知らない人のことなんて信用できない。

「去年、あるクラスでいじめがあったって聞いたよ」

「……」

「津田さんが学校に行きたくないのなら、俺は無理に来なくても良いと思う。でも、俺なら話し相手になれるし、友達になれたらって思うんだけど」

 やだなぁ、こういう人。正しいことをしてるって思ってるのかな。“友達になれたら”なんて出来もしないことを言っちゃうの、“偽善者”って言うんだよ。どうせ嫌いになるくせに。

 わたしがそのまま黙り続けていると、何かを察したのか、諦めがついたのか、ヤツは静かに「わかった」と言った。

「迷惑だったらごめん。今日はもう帰るね」

 お願いだから、もう来ないで。わたしに、構わないで。これ以上、誰かに嫌われて傷付きたくない。

「俺は、津田さんの味方だから。それだけは覚えていて」

 ヤツはそう言い残すと、部屋の前から立ち去った。



 そして、その日を境にヤツが来ることはなくなった。


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