篠原くんのお見舞いで神谷くんと衝撃的な出会いを果たした翌日、突然神谷くんが相談室に押しかけて来た。

「トンちゃん、遊びに来たぜ!」

 バーンと効果音が付きそうなほど勢いよくドアが開いて、わたしと西田くんはすっかり怯えてしまった。

「アッ、アノ、ナンノヨウデ……」

 神谷くんと会ったのは2回目だけど、なんで馴れ馴れしくトン(・・)ちゃんなんて呼ばれなきゃいけないんだろう。失礼じゃないの?

「篠原のやつ、最近新島ばっかでぜんぜん構ってくれねぇんだもん! 暇だから、来ちった」

 来ちった、じゃない。いきなり押し掛けてきたら、先生だって迷惑だ。先生、どうぞこいつを追い出してください!

「あらあら、とっても元気なのね。お菓子はいかがかしら?」

「いいんすか? やったー!」

 最悪だ……。平和だった相談室が、ノーデリカシー男子に占拠されてしまうなんて。

「先生、良いんですか!? 神谷くん、別に困ってることとかなさそうですけど!」

 ここは、悩み事を聞いてもらうための場所じゃないのか。わたしが日高先生に耳打ちすると、先生は目尻にしわを寄せてニコッと笑った。

「あら、いいのよ。相談室は誰でも自由に来てもいい場所なんだから。こうしてお菓子を食べに来るだけでも、先生大歓迎だわ!」

 そんなこんなで、昼休みになると神谷くんが相談室にやってくるようになった。

 最初、神谷くんを警戒していた西田くんも、よく喋りかけてくる神谷くんには慣れてしまったらしい。最近は3人でスマホでゲームをして遊ぶくらいには仲良くなっていた。
 恐るべし、コミュ力お化けの神谷くん……。



 そうしてなんだかんだ和やかに過ごしているうちに、西田くんは教室復帰した。
 また、しばらくは相談室の中は先生とわたしの二人だけになる。西田くんとゲームやマンガの話をするのは楽しかったから、ちょっと寂しいな。

 そんなことを思ってたら、お昼休みに西田くんが遊びに来てくれた。神谷くんと一緒に。

「トンちゃん、知ってる? 篠原の奴、昨日おじさんにめちゃくちゃ絞られたらしいぜ」

 そう、報告してくる神谷くんの顔が、やたらうれしそうにニヤニヤしている。本当に神谷くんって、篠原くんの親友なの?

「篠原くん、怒られちゃったんですか!? 一体何があったんですか!?」

 あんなに温厚なおじさんを怒らせるなんて、篠原くんは一体何をやらかしたんだろう。

「それがさ、昨日めちゃくちゃ面白いことがあって――」

「あ―――っ! あっ! あ――――あ――――っ!!」

 神谷くんが理由を話そうとすると、突然西田くんが騒ぎ始めた。

 いきなり、大声をあげるからびっくりしたじゃん、やめてよ心臓に悪いな!

 今日の西田くんは、顔中にガーゼを当てている。すごく痛々しいけど、何があったのかは教えてくれない。

「なんだよ、西田。いいだろ、別に!」

「だめだよ、篠原くんとの約束なんだから! 絶対に喋っちゃダメ!」

 えっ、えっ、篠原くんとの約束? なに? 何があったの?

 わたしがふたりの顔を交互に見ていると、西田くんは苦笑いしつつ「大した話じゃないから」とごまかされてしまった。

 なんだろうこれ。なんか仲間外れにされてる気分。

 男同士の友情というやつには、女子である自分は立ち入れないらしい。いいなぁ、男子って。
 まぁ、わたしなんかが、みんなの事情に関わりたいだなんて、おこがましいだけなんだけど。

 内心ちょっと不貞腐れたりしながら、気を取り直して課題を勧める。
 篠原くんに聞いたら、教えてくれるかな。

「トンちゃん、この問題分かる?」

「えぇっとですね、この問題は――」

「なるほど、こうやって解くのか。トンちゃんすげーな。超わかりやすい!」

「そ、そうですかね。えへへ……」

 褒められてちょっと嬉しい。ここはわたしも苦手だった問題だったからな。何度も篠原くんに教わったところだから、人に教えるのも得意になっているのだ。

 わたしたちに混ざって、一生懸命勉強している神谷くんを見ていると、本当に桜花咲に行くつもりなんだなぁって感心した。

 神谷くんて勉強嫌いそうな感じなのに、なんか意外だ。