「どんなに必死になって足掻いたって、お前がやってきた事実は変わらない。へらへら笑ってる腹の底で何考えてるか知ってんだよ。お前がどんなに汚い奴かって。なぁ。傷つけてみろよ前みたいにさ」
何度も、何度も、何度も。恨み言を吐かれるたびに、衝撃が来る。歯を食いしばって、必死に意識をつなぎとめる。鼻から温かいものが滴った。
不快だった。繰り返される顔への打撃も。立とうとしても崩れる足も、口の中にたまる鉄の味も、聞こえもしない悠真の恨み言も。そして、僅かに震える彼の手も。全てが不快で不快で仕方なかった。
「お前みたいな奴が、凡人みてーな振りしてんじゃねぇよ篠原ァ゛!!」
突然、バイクのエンジン音が響き渡る。数個のヘッドライトが、悠真や村上達を照らした。
「やべぇ、裏から逃げるぞ!」
咄嗟に誰かが叫んだ。村上たちが、散り散りになって走りはじめる。日下の足が止まった。悠真が来ていない。
「なにやってんだ、悠真!」
呆然とした顔で咲乃を見つめ、その場を動かない悠真に、日下がしびれを切らして叫んだ。やっと気付いた悠真も、日下と共に裏口に向かって走って行った。
力尽きてくずおれる咲乃の横を、数台のバイクが通り過ぎる。バイクは、悠真たちを追い駆け走り去って行った。
「やっべー、バレなくてよかったぁ」
騒ぎが遠のくのを見計らってから、廃車の中から人が現れた。地面に倒れている咲乃の元へ近づく。咲乃に近い背丈をした少年は、スマホのライトで咲乃を照らした。
「おーい、生きてっかー?」
煩わし気に咲乃が顔を上げると、フラッシュが焚かれた。
「いやー、いい絵が取れたぜ。これは傑作で間違いなしだな!」
「……そういうのはやめろって言ったよね?」
咲乃が少年を睨むと、少年は今さっき撮った写真を画像フォルダーに保存した。
「んな怖い顔すんなって。美少年がボロボロになってる姿つーのは、一部に需要があるんだぜ?」
スマホのブルーライトで照らされた顔は、さも満足そうにニヤつかせている。
「お前なんかに助けを求めなきゃよかった」
人選ミスだと吐き捨てる咲乃に、神谷はニヤついた顔のまま手を差し伸べた。
「助けてやったんだから、多少の褒美ぐらい許せよ」
咲乃は溜息をついて、神谷の手を握り返して立ち上がった。
再びバイクのエンジン音が近づいてきて、5台のバイクが咲乃たちを囲うように停まる。ヘッドライトの強烈な明るさが、咲乃の目に突き刺さった。
「サンキュー、兄貴。助かったぜ!」
神谷は、バイクから降りた長身のシルエットに向かって手を振った。神谷が兄貴と呼んだその人物は、神谷に向かって軽く手を挙げて挨拶を返すと、気の毒な顔をして咲乃をみた。
「わりーな、遅くなって。亮が、合図するまで出てくんなって言うからよ」
赤く髪を染めた高校の学ランを着崩した青年が、腕を組んで神谷を睨みつけている。
「いえ、あれで良かったんです。助けていただいて、ありがとうございました」
咲乃が頭を下げると、青年は気まずそうに頭の後ろを掻いた。
「そーか? お前が良いならいいけど。お前ら、さっさと後ろ乗れや。バイクがうるせぇって通報されても厄介だから。病院に連れてってやる」
離れたところで、青年の仲間が西田に肩を貸している。
咲乃はようやく安心して、改めて青年に礼を言った。
何度も、何度も、何度も。恨み言を吐かれるたびに、衝撃が来る。歯を食いしばって、必死に意識をつなぎとめる。鼻から温かいものが滴った。
不快だった。繰り返される顔への打撃も。立とうとしても崩れる足も、口の中にたまる鉄の味も、聞こえもしない悠真の恨み言も。そして、僅かに震える彼の手も。全てが不快で不快で仕方なかった。
「お前みたいな奴が、凡人みてーな振りしてんじゃねぇよ篠原ァ゛!!」
突然、バイクのエンジン音が響き渡る。数個のヘッドライトが、悠真や村上達を照らした。
「やべぇ、裏から逃げるぞ!」
咄嗟に誰かが叫んだ。村上たちが、散り散りになって走りはじめる。日下の足が止まった。悠真が来ていない。
「なにやってんだ、悠真!」
呆然とした顔で咲乃を見つめ、その場を動かない悠真に、日下がしびれを切らして叫んだ。やっと気付いた悠真も、日下と共に裏口に向かって走って行った。
力尽きてくずおれる咲乃の横を、数台のバイクが通り過ぎる。バイクは、悠真たちを追い駆け走り去って行った。
「やっべー、バレなくてよかったぁ」
騒ぎが遠のくのを見計らってから、廃車の中から人が現れた。地面に倒れている咲乃の元へ近づく。咲乃に近い背丈をした少年は、スマホのライトで咲乃を照らした。
「おーい、生きてっかー?」
煩わし気に咲乃が顔を上げると、フラッシュが焚かれた。
「いやー、いい絵が取れたぜ。これは傑作で間違いなしだな!」
「……そういうのはやめろって言ったよね?」
咲乃が少年を睨むと、少年は今さっき撮った写真を画像フォルダーに保存した。
「んな怖い顔すんなって。美少年がボロボロになってる姿つーのは、一部に需要があるんだぜ?」
スマホのブルーライトで照らされた顔は、さも満足そうにニヤつかせている。
「お前なんかに助けを求めなきゃよかった」
人選ミスだと吐き捨てる咲乃に、神谷はニヤついた顔のまま手を差し伸べた。
「助けてやったんだから、多少の褒美ぐらい許せよ」
咲乃は溜息をついて、神谷の手を握り返して立ち上がった。
再びバイクのエンジン音が近づいてきて、5台のバイクが咲乃たちを囲うように停まる。ヘッドライトの強烈な明るさが、咲乃の目に突き刺さった。
「サンキュー、兄貴。助かったぜ!」
神谷は、バイクから降りた長身のシルエットに向かって手を振った。神谷が兄貴と呼んだその人物は、神谷に向かって軽く手を挙げて挨拶を返すと、気の毒な顔をして咲乃をみた。
「わりーな、遅くなって。亮が、合図するまで出てくんなって言うからよ」
赤く髪を染めた高校の学ランを着崩した青年が、腕を組んで神谷を睨みつけている。
「いえ、あれで良かったんです。助けていただいて、ありがとうございました」
咲乃が頭を下げると、青年は気まずそうに頭の後ろを掻いた。
「そーか? お前が良いならいいけど。お前ら、さっさと後ろ乗れや。バイクがうるせぇって通報されても厄介だから。病院に連れてってやる」
離れたところで、青年の仲間が西田に肩を貸している。
咲乃はようやく安心して、改めて青年に礼を言った。