西田くんが相談室に来るようになってから1週間が経ったけど、わたしは未だに西田くんと話せずにいる。
篠原くんからは、「友達が相談室に通うことになったから、仲良くしてあげて」と言われているけど、そんなことコミュ障のわたしにこなせる訳がなかった。
西田くんも相当のコミュ障なのか、チラチラこちらを気にして見ているそぶりがあっても、話しかけてくる気配が一切ない。かろうじて交わされる言葉と言えば、お互い控え目に挨拶を交わす程度だ。そもそも、篠原くん以外の男子と喋ったことないのに、見知らぬ男子と仲良くなんて出来るわけがない。
「あらあら、困ったわね」
日高先生は苦笑気味に、長テーブルの端と端に座って自習しているわたしたちを交互に見た。
「津田さん、新しいお友達が出来るチャンスよ」
お節介なおばちゃん根性で、余計な耳打ちをしてくる。
仲良くしろって言われたって……、西田くんには悪いけど、全身から根暗クソオタクの臭いがプンプンするんだよ。根暗クソオタクと根暗クソオタクはプライドだけは高いから、同じジャンルが好きでもたった一つの解釈違いで険悪になったりするし、オタク同士って意外と友達になるの難しいんだよな。
「もう、こんなに暗くちゃ、先生息苦しくなっちゃうわ!」
日高先生は、溜息をついてうなだれた。横目でわたしたちの反応を窺っている。わたしは冷や汗をかきながら、夢中で課題に取り組んだ。先生が視線で圧をかけてくるから全く集中できないんだけども!
先生は思いついたとばかりに、元気よく両手を叩いた。
「ねぇ西田さん、あなたのことを聞かせてくれないかしら? あなた、趣味はあるの?」
「えぇっ! ……ぼ、僕ですか?」
突然、話題を振られた西田くんは、汗をびっしょりかいてあたふたした。
「そうよ? だって先生、西田さんとお友達になりたいんだもの。それとも私の趣味が知りたい?」
「え、いや……特には」
そこは興味がなくても聞いてあげなさいよ。これだから、コミュ障は……。まぁ、教えてもらった趣味がピンとこなかった時の空気は地獄なんですけど。
「じゃあ、西田さんの趣味を聞かせてちょうだい」
日高先生が眼鏡を光らせて、ぐいっと西田くんに迫った。西田くん、完全に怯えてます。やめてあげてください先生。
「ゲ、ゲームとか……」
「あらぁっ、ゲーム!? ゲームなら津田さんも好きなのよ! ねぇ!?」
おーっと、急に話題がキター!! これは何という変化球。わたしの心臓が持ちません!
「え!……あ……ぅ……、ゲ、ゲームって言っても……わたしのは女子向けのゲームですけど……」
本当はアクションゲームも結構得意だったりするんだけど、最近のゲームは持ってないので、適当に誤魔化しておく。別に西田くんと仲良くなりたいわけじゃないし。
「あ……ぼ……僕も、そんなにゲーム、詳しく……ないです……」
「あらそう」
空いた窓の外からさわやかな風がカーテンを揺らした。部屋の壁時計が静かに時を刻んでいる。
おやつまだかなぁ
「でも、ゲームは好きなのよね? どんなゲームやっているの? 先生、詳しくないんだけど、教えてほしいわ!」
「え……あ、はい」
ゲーム詳しくない人にゲームのこと教えてあげるって、結構難しいんだよな。質問がざっくりしすぎて、西田くんも困った顔をしている。
「え……と……、今僕が主にやっているのは無料でプレイできるオンラインゲームで、最大100人のプレイヤーと対戦して、生き残って勝利することを目指して対戦するバトルロイヤルゲームです。最初はグライダーで開始地点を選べるんですけど、どのプレイヤーも最初は武器やアイテムは持っていなくて、すべて現地調達なんですが、強い武器を調達できるかどうかは運要素も強いんですが、相手のプレイヤーを倒しても調達できます。プレイヤー自身の腕も重要でしてこのゲームの深いところが――」
うわぁ……オタク特有の早口。先生もよくわかんなくて戸惑ったように目をぱちくりさせている。顔色から聞くんじゃなかった感がにじみ出ている。
「そうなのね〜。なんだか難しそうなゲームね。知らなかったわ~。そ、そうだ、音楽は? 西田さん、好きな音楽なんてあるかしら?」
日高先生はわかりやすい社交辞令を言った後、別の話題に舵を切った。
「お、音楽ですか……音楽は、『My dear Stella』の曲が好きで――」
My dear Stellaって確か、美少女アイドルのアニソンじゃん。非オタに音楽の趣味を聞かれた時に答えていい種類の音楽じゃないんだよなぁ。
わたしも、マイ・ステは好きだけど、マイ・ステみたいな萌え萌えした曲は先生には刺激が強いと思うぞ?
篠原くんからは、「友達が相談室に通うことになったから、仲良くしてあげて」と言われているけど、そんなことコミュ障のわたしにこなせる訳がなかった。
西田くんも相当のコミュ障なのか、チラチラこちらを気にして見ているそぶりがあっても、話しかけてくる気配が一切ない。かろうじて交わされる言葉と言えば、お互い控え目に挨拶を交わす程度だ。そもそも、篠原くん以外の男子と喋ったことないのに、見知らぬ男子と仲良くなんて出来るわけがない。
「あらあら、困ったわね」
日高先生は苦笑気味に、長テーブルの端と端に座って自習しているわたしたちを交互に見た。
「津田さん、新しいお友達が出来るチャンスよ」
お節介なおばちゃん根性で、余計な耳打ちをしてくる。
仲良くしろって言われたって……、西田くんには悪いけど、全身から根暗クソオタクの臭いがプンプンするんだよ。根暗クソオタクと根暗クソオタクはプライドだけは高いから、同じジャンルが好きでもたった一つの解釈違いで険悪になったりするし、オタク同士って意外と友達になるの難しいんだよな。
「もう、こんなに暗くちゃ、先生息苦しくなっちゃうわ!」
日高先生は、溜息をついてうなだれた。横目でわたしたちの反応を窺っている。わたしは冷や汗をかきながら、夢中で課題に取り組んだ。先生が視線で圧をかけてくるから全く集中できないんだけども!
先生は思いついたとばかりに、元気よく両手を叩いた。
「ねぇ西田さん、あなたのことを聞かせてくれないかしら? あなた、趣味はあるの?」
「えぇっ! ……ぼ、僕ですか?」
突然、話題を振られた西田くんは、汗をびっしょりかいてあたふたした。
「そうよ? だって先生、西田さんとお友達になりたいんだもの。それとも私の趣味が知りたい?」
「え、いや……特には」
そこは興味がなくても聞いてあげなさいよ。これだから、コミュ障は……。まぁ、教えてもらった趣味がピンとこなかった時の空気は地獄なんですけど。
「じゃあ、西田さんの趣味を聞かせてちょうだい」
日高先生が眼鏡を光らせて、ぐいっと西田くんに迫った。西田くん、完全に怯えてます。やめてあげてください先生。
「ゲ、ゲームとか……」
「あらぁっ、ゲーム!? ゲームなら津田さんも好きなのよ! ねぇ!?」
おーっと、急に話題がキター!! これは何という変化球。わたしの心臓が持ちません!
「え!……あ……ぅ……、ゲ、ゲームって言っても……わたしのは女子向けのゲームですけど……」
本当はアクションゲームも結構得意だったりするんだけど、最近のゲームは持ってないので、適当に誤魔化しておく。別に西田くんと仲良くなりたいわけじゃないし。
「あ……ぼ……僕も、そんなにゲーム、詳しく……ないです……」
「あらそう」
空いた窓の外からさわやかな風がカーテンを揺らした。部屋の壁時計が静かに時を刻んでいる。
おやつまだかなぁ
「でも、ゲームは好きなのよね? どんなゲームやっているの? 先生、詳しくないんだけど、教えてほしいわ!」
「え……あ、はい」
ゲーム詳しくない人にゲームのこと教えてあげるって、結構難しいんだよな。質問がざっくりしすぎて、西田くんも困った顔をしている。
「え……と……、今僕が主にやっているのは無料でプレイできるオンラインゲームで、最大100人のプレイヤーと対戦して、生き残って勝利することを目指して対戦するバトルロイヤルゲームです。最初はグライダーで開始地点を選べるんですけど、どのプレイヤーも最初は武器やアイテムは持っていなくて、すべて現地調達なんですが、強い武器を調達できるかどうかは運要素も強いんですが、相手のプレイヤーを倒しても調達できます。プレイヤー自身の腕も重要でしてこのゲームの深いところが――」
うわぁ……オタク特有の早口。先生もよくわかんなくて戸惑ったように目をぱちくりさせている。顔色から聞くんじゃなかった感がにじみ出ている。
「そうなのね〜。なんだか難しそうなゲームね。知らなかったわ~。そ、そうだ、音楽は? 西田さん、好きな音楽なんてあるかしら?」
日高先生はわかりやすい社交辞令を言った後、別の話題に舵を切った。
「お、音楽ですか……音楽は、『My dear Stella』の曲が好きで――」
My dear Stellaって確か、美少女アイドルのアニソンじゃん。非オタに音楽の趣味を聞かれた時に答えていい種類の音楽じゃないんだよなぁ。
わたしも、マイ・ステは好きだけど、マイ・ステみたいな萌え萌えした曲は先生には刺激が強いと思うぞ?